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『ファクトフルネス』と投資家マインド

『ファクトフルネス』(ハンス・ロスリングほか著、日経BP社)。みなさんはもうお読みになりましたか?今年の1月に日本語訳が発売されてすぐに話題になり、その時点で“2019年のビジネス書ナンバー1”ではと評判の高い本です。
私は比較的最近になって読んだのですが、年末に向けて“今年の話題の本”みたいな文脈ではまた話題になる気もします。ちょっと自分なりの感想を書いてみます。

最初にクイズを2つ。本を読んでない方は、自分の直観に従って一つ選んでみてください。

Q世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?
A 約2倍になった
B あまり変わっていない
C 半分になった
Q世界中の1歳児の中で、何らかの病気に対して予防接種を受けている子供はどのくらいいるでしょう?
A 20%
B 50%
C 80%

『ファクトフルネス』は、こんな感じで13のクイズから始まります。非常に興味深いことですが、3択なんだからせめて3分の1くらいの正答率かと思いきや、実際の著者の経験ではそれよりずっと低いものほとんどだそうです。例えば先ほどの“極度の貧困”に関する問題では正答率は7%。“予防接種”では13%とのことです。

サルが適当に選んだとしても33.3%くらいになるでしょうから、これらの知識については、「知らないというよりもみんなが同じ勘違いをしているのでは」と著者は問いかけます。
なぜ、そんなことになるのか?ここからがこの本の本領ですが、皆が同じ勘違いをしやすい、思い込みやすいには訳があるはず。例えば「ドラマチック過ぎる世界の見方」というバイアス

メディアに携わる者としては耳の痛い話ですが、メディアはなるべくドラマチックな話題、ニュースを取り上げます。ただ「どこそこでは明るく、平和に一家が夕ご飯を食べました」みたいな報道はまあ見たことないですね。といいますか、それは別にニュースではありません。詳しくは本書をお読みいただければと思いますが、様々な本能だったり、メディアの影響や正しい知識の普及がかなり遅れていることで、私たちは、随分と自分たちが暮らす世界、社会の実態を知らない状態なのだと思います。

この本を読みながら、僕が勝手に感じたことですが、「事実をありのままにみて、数字、ファクトを大事にし、未来の可能性にかける」――。この本に通底する考え方は、――投資家マインドそのものではないかと思います。あるいは起業家や経営者のマインドに通ずるところもあるように思います。

僕自身は新聞記者になりたくてこの世界に入ってきて、たまたま市場とか投資家、起業家、経営者などの取材が長かったので、この投資家マインド的なものが最初はちょっと不思議でならなかった覚えがあります。分かりやすいから、例に出してしまうのは恐縮ではありますが、さわかみ投信の澤上篤人さんとか、もうめちゃくちゃに基本的に明るいですよね。初めてお会いしたころはちょっと不思議といいますか、もう少し言って「大丈夫?」みたいな感覚でした。。

ですが、投資家の世界の取材を続けているうちに、世間一般の思い込みと、真実、実態の間のギャップあれば、それは投資チャンスなんだということを感じるようになりました。今はそうした意味での真の投資家マインド、あるいは経営者マインド、起業家マインドといったもの、彼らの明るさ、未来を信じる力を尊いものと感じるようになりました。

もちろん明るく未来を信じることは問題から目をそらすということとは全く違います。もちろん世界に数多の問題が」あります。著者が指摘する、心配すべき5つのグローバルリスクは以下のようなものです。

<心配すべき5つのグローバルリスク>
感染症の世界的な流行
金融危機
第3次世界大戦
地球温暖化
極度の貧困

僕自身は市場周りの仕事をしてますから、個人的には金融危機の可能性などは特に気になりますが、著者が挙げているどれもが、やはりとても大事な問題です。

個人的にはジャーナリズムやメディア側の気持ちも少し理解してほしいと思うところもあります。本質的にそういう面がある仕事(ドラマチック過ぎることを見つけてきては拡散する)なんだと。そんな風に寛容な理解を示していただかなくても、投資家ならば、多くの人が思い込んでいる見方と現実との間にギャップがあれば、それは投資のチャンスなのだととらえていただきたい。メディアをそんな風に利用したいただきたいとも思います。

まあ、そんな身勝手で小難しいことを言わなくても、この本は“読み終えて明るくなれる本”です。それからネタバレになるのでここでは控えますが、最後まで読むとちょっとびっくりというか、感動といいますか、切なくなるところがあります。もしまだ読んでないならば自信を持っておススメできる今年の一冊のうちの一つです。

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