原油先物価格の“マイナス”!――“異次元コンタンゴ”の示唆するものは?
いやー。。。2~3月以降の急激な相場変動で、たいていのことにはびっくりしないつもりになっていましたが、昨日20日(月)から今日21日(火)の原油先物価格の動きには正直びっくりしました。
新型コロナウイルスによる需要急減が激しく、OPECやロシアも含めた協調減産にもかかわらず下落基調に歯止めがかからなかった原油価格。しかし21日の米国市場ではWTI先物5月物がなんとマイナス40ドル前後まで下落。終値(清算値)はマイナス37ドル台でした。「原油価格がマイナス」とは、かなりベテランの市場関係者でも想定していないというか、理解しにくい出来事でした。
原油先物価格でマイナスが起きてしまうそもそもの仕組みについては、QUICKのQuick Money World(マネーワールド)というWEBサイトに20日に掲載された「原油先物は“超コンタンゴ” 期先と期近の価格差が起きる仕組みとは」に分かりやすく解説されていますのでご一読をお勧めします。僕なりに理解したところでは、需要の減退というか消失みたいなことを背景に、原油の在庫が急速に積み上がり、「現物の原油についてはおカネを払ってでも誰かに渡したい」という状況になってしまったということです。
どういうことか――。商品先物の世界では期近物より期先物の方が価格が高い状態を「コンタンゴ(順ざや)」と呼びます。通常の状態でも、商品購入資金の調達金利であるとか、現物(ここでは原油)の保管コストや生産コストがかかるため、期先物の方が高くなります。今回はあまりにも極端に足元の現物がだぶついてしまい、21日が取引最終日である5月物の価格形成が異常な状態になりました。20日の日本時間から時間外取引の5月物の価格が目立って下落し14ドル~15ドルという状態でした。しかもこの時間帯、ひと月期先の6月物は、軟調ではありましたが20ドル以上は保っていました。こんなに価格差が開く状態を普通はあり得ないこととして「メガ・コンタンゴ」とか「スーパー・コンタンゴ」と呼ぶのだそうです。
ハイライトはさらに先に待っていました。20日のNY時間もWTI5月物価格は下げ止まらず、一気にゼロの壁を突き抜けてマイナス40ドル前後まで達したのです。20日から21日にかけて何人かに聞いてみましたが、原油に詳しい市場関係者の間でも概ね原油価格のマイナスは「あり得ないこと!」でした。ゼロを突き抜けてマイナスに突入する際の値動きがあまりに直線的であるだけに「ゼロ近辺の動きはまさに投機の動きが加速したとしか考えられない」(大和証券の壁谷洋和チーフグローバルストラテジスト)といいます。ちなみに今日の日経CNBCのテレビ放送でも原油先物価格のマイナスはシステム上想定していないため「-」印を手入力で加えて表現していました。20日日本時間くらいの価格差が開く状態が「メガ・コンタンゴ」か「スーパー・コンタンゴ」なのだとしたら、21日のNY時間は「異次元コンタンゴ」の世界に突入したようなものです。
すでに多くの人が指摘していますが、6月物はそれほど極端な下落に陥っておらず、20ドル以上を保っています。ちなみに日本時間の21日午後4時過ぎでは9月物は30ドル程度、さらに一年先の21年6月物は(流動性には乏しいですが)35ドル前後で推移しています。この先物価格の先々にかけての価格形成を見る限り「原油価格の急落、マイナス突入は一時的なテクニカルな要因によるもので、先々はコロナの収束とともに緩やかな回復が見込まれる」(三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩シニアストラテジスト)という見方が多いように思います。21日の日本市場で資源関連とされる国際帝石(1605)は5円30銭(0.83%)安、石油資源開発(1662)は3円(0.16%)安と、落ち着いた値動きでした。
米国シェール企業などのクレジット市場に異変はないか、中東を中心に産油国の政情やオイルマネーに異常な動きが出ないか――。心配事は尽きませんが、原油価格の先々を占う要素は、結局は株式市場と同じといえば同じです。株式市場が(やや楽観的に)みているように、新型コロナの感染はそう遠くなくピークを越えて、いずれ世界経済も回復に向かうのであれば、原油先物の先々の価格形成はそう間違ってはいない。しかし、多くの人が心配しているように、ピークはなかなかみえないし、経済活動を再開したと思ったらまたコロナがぶり返して活動が止まる――といったことになってしまえば、原油価格低迷(マイナスとまで言わないまでも)が長期化してしまうリスクがあるということだと考えます。
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