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“Go Toトラベル”の効果と課題

「Go Toトラベル」や「Go Toイート」。観光業や宿泊業、あるいはイベント関連業などを支援する政策パッケージです。「もう使ってるよ」という方も増えているのではないでしょうか?10月16日(金)朝エクスプレス、マーケット・レーダーでは「“Go Toトラベル”の効果と課題」というテーマで、第一生命経済研究所の小池理人さんにお話しいただきました。いろいろと課題や、トラベルならぬトラブルもあるわけですが、小池さんは「スピード感を重視している点は重要」といいます。

まず最初に「Go To」キャンペーンの概要を把握しましょう。現時点で話題に上るのは「トラベル」と「イート」に集中しているようですが、イベント、商店街なども含めて苦境に陥っている業界を下支えするための総合的な政策パッケージの色合いが強いと思います。

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裏を返せばそのくらい、これらの業界はコロナ禍の直撃を受けてきたわけです。下のグラフは第3次産業活動指数。サービス業界全体的に厳しいのはもちろん、飲食店・飲食サービスや娯楽業などへの影響が大きい点が一目瞭然。とりわけ宿泊業は、一時期、前年同月で約8割減となるなど、まさに“需要喪失”の状態でした。

20.10.18 第3次産業活動指数IMG_0174

小池さんは「日銀による資金繰り支援の効果などもあり、リーマンショック時のように倒産が急激に増えるといった事態には今のところ陥っていない」と見ます。一方で、それはあくまで流動性、資金繰り支援の話で、現在のような状況が続けば、当然、企業が求めるのは資金繰り支援から資本や財務の健全性維持へとシフトしていきます。下の図表は宿泊業の借入金と自己資本比率の動向をみたもの。

20.10.18 宿泊業の借入金と自己資本比率IMG_0175 (1)

4-6月期にかけて自己資本比率は急激に低下している一方で、借入金が急増しているのが明らかです。現在は資金繰り支援が奏功していると言えそうなものの、借入金の多い中小企業にとっては企業存続の意味を問われるような局面になりかねないとも言えます。コロナによって今の状況が長引けば、いずれ多くの企業が倒産の危機に瀕する可能性もないとは言えません。「GoTo」キャンペーンが必要とされる理由です。

さらにこれらの業界を苦境に追いやっている背景の一つが、インバウンド需要の消失です。このところの成長が著しかっただけに深刻。下のグラフは国内旅行の規模を見たものです。

20.10.18 国内旅行の規模IMG_0176 (2)

ただ、こうしてみると意外といえば意外ですが、インバウンド需要(訪日外国人旅行)は、近年の成長が著しく、街で見かけることも増えていたわけですが、国内旅行の規模全体から見れば4分の1にも満たないのです。それならば日本国内旅行を促すことで、一定の下支え効果はありそうです。実際のところ効果はどうなのか?次のグラフは宿泊・飲食の動向と新規感染者数の動向をみたものです。

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足元ではちょっと横ばっているようにも見えますが、小池さんは「それほど心配しなくてもよいのでは」といいます。7月22日の「Go Toトラベル」開始当初は、「早過ぎたのでは?」といった批判も根強かったのですが、コロナの落ち着きも相まって徐々に広がり、10月1日からは東京都が加わったことで回復が加速しているとみられます。またその土地での消費を促す地域限定クーポンの仕組みが始まったことも追い風です。

とはいえまだまだ使い勝手が悪かったり、そもそも地方によっては周知が足りておらず地域限定クーポンが使いにくいといった指摘も多いようです。最近では、一部の旅行サイトで利用集中により予算枠がひっ迫、割引額を減額するような動きもありました。また、“Go Toイート”では当初、少額の注文でポイントを荒稼ぎする“錬金術”のような話題を提供し、対応を迫られました。

トラブルは目立ちますが、小池さんは「スピード感を重視し、ある程度走りながら考え、修正していくことも重要」と見ます。確かに盤石な体制を組むのに時間をかけて、その間に企業経営の苦境が一段と深まってしまう可能性も十分あります。個人的には大手宿泊業や予約サイトなどには資金が回りやすくなる半面、規模の小さい宿泊業者や街の飲食店などには支援が向いにくいのではと危惧しています。とはいえ小池さんの指摘の通り、ここは走りながら修正していく局面かもしれません。機動力が問われます。

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