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コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2019  大賞は塩野義製薬

先週、2月25日(火)、都内でコーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2019の表彰式があり、取材してきました。先日、放送でコメントし、2月7日のnote「企業価値向上表彰で考える “世の中はちょっとずつよくなっている”」で取り上げたのは東京証券取引所が実施している企業価値向上表彰。今回は日本取締役協会が表彰するコーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤーです。今年で5回目になります。日本取締役協会は、オリックスのシニア・チェアマン、宮内義彦さんが会長を務める経営者や投資家、学識者などプロフェッショナルの団体。コーポレートガバナンスの普及・啓蒙を目的に活動しています。ガバナンスを重視する姿勢は東証の表彰と共通ですが、日本取締役協会という団体の性格上“経営者”には力点がありそうです。

まずはその受賞企業をみていきましょう。

コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2019 受賞企業
<大賞>
塩野義製薬(4507)
<入賞>
日本精工(6471)
三井化学(4183)
特別賞・経済産業大臣賞
資生堂(4911)
特別賞・東京都知事賞
ダイキン工業(6367)

特別賞の方から簡単にコメント。経済産業大臣賞はガバナンスの根幹である社長・CEOの選任・後継者計画についての取り組みを評価します。社長・CEOの選び方や育成にフォーカスするとはユニークです。東京都知事賞は東京都が重視するESGに力点を置きます。コーポレートガバナンスに加え環境対応、女性活躍推進、働き方改革などに積極的な企業を表彰します。

さて、コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2019。斉藤惇さん(日本野球機構会長・プロ野球組織コミッショナー)が審査委員会委員長を務めています。 表彰式では、それぞれの受賞企業に審査委員から講評があり、また経営者からメッセージがありました。僕なりに印象的なポイントを書いてみました。 

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優秀賞の日本精工。昨年WICIジャパンが表彰する統合報告書優良企業表彰で大賞を受賞した企業でもあります。一般的にあまりガバナンスに熱心とは言いにくい自動車業界にあって、早い段階から社外取締役、委員会等設置会社などに取り組み、成果を挙げてきました。
優秀賞のもう一社が三井化学です。重工業、そして財閥系としては初めての受賞ということです。淡輪敏さんが社長に就任した2014年当時、3年連続最終赤字と非常に厳しい状態からのガバナンス改革だったといいます。こうした歴史のある企業がガバナンスを軸に経営改革を実践してきたということ自体が希望であり、日本経済の可能性だとも感じます。

そして大賞は塩野義製薬。かねてガバナンスの評価、そして株式市場の評価も高い企業です。審査委員の伊藤邦雄・一橋大学大学院特任教授が講評で指摘したのは次のようなポイントでした。このポイント自体がユニークです。

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塩野義製薬の評価、4つのポイント
1. 健全な恐怖心
2. 前社長から距離を置いて学ぶ
3. 社長、経営者としての意識と洞察力
4. 社員を奮い立たせる学習する機会の整備

1. 健全な恐怖心?経営者に対するある種の戒めみたいなことだと思えるのですが、社長になったら誰も本当のことは言いに来ない(=いい話ばかり持ってくる)、まずい飯はなくなる(=ごちそうばかり)――。そうした中で「どのように正気を保つのか?」について、インタビューなどを通じて手代木巧社長の健全な恐怖心を感じたそうです。
2. 前社長から距離を置いて学ぶのは、素人が想像しても簡単ではありませんね。塩野義製薬は創業が1878年(明治11年)の老舗企業。企業の歴史は140年を超えます。前社長はオーナー系の経営者。現在の手代木社長はそのもとで経営企画部長なども務めていたとのこと。当時は業績も芳しくなく、企業情報の開示姿勢も悪いことから“製薬業界の北朝鮮”とも揶揄されていたとか……。そこからの改革は簡単ではないはずですが、経営者の意識次第で変わることができる良い例ということでしょう。
3. 経営者としての意識や洞察力。経営者が本気でなければ社員は働かない。それは確かにその通り。一例として講評で挙げていたのが手代木社長が「基本的に昼食を取らない」ということ。。。「えっ」と思いますが、社員の背筋は伸びますね。
4. そして社員が学習する機会。塩野義製薬では5-10人くらいの“社長塾”という仕組みがあるそうです。例えば手代木社長が(想定上の)株主という立場から社員に厳しい質問を浴びせかけるといった学習機会があると。

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こうしたことは様々な企業活動の中のほんの一幕なのでしょうが、その一端を見るだけでも、社内外に経営改革のためのいろいろな仕組み、仕掛けが施されている様子がうかがえます。

さて、言うまでもなく世界市場は現在、波乱と混乱の真っただ中にあります。2日の放送でこのテーマを取り上げること自体少し迷ったのですが、むしろ「こういう時こそ」だと思い直しました。先日の企業価値向上表彰でもそうでしたが、こうしたよい経営、元気な経営、そして結果を出している経営の例を見ていると、素直に元気が出てきます。多くの企業が模範とすべき例がそこにあるのはいいことです。これらの企業の株を買うのが間違いない――という言い方はできませんけれど、波乱、混乱でどんな企業の株価も下がっているような時にこそ、ベースの経営の考え方がしっかりしている企業こそ、投資対象として考えるのがシンプルに“あり”だと思います。

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もう一つ強く感じたことがあります。これは宮内義彦会長が表彰式で指摘していたことですが「コーポレートガバナンスなどの面でトップクラスの企業の素晴らしさは言うまでもない一方、全体の底上げが必要。これは力仕事だ」と……。数少ないトップレベルの企業と、「何となくやれと言われたからやってます」みたいな多くの企業の二極化が進んでいるのかもしれません。敢えて投資に引き付けて言えば、企業の選別がとても大事だと思います。

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