急落後、個人投資家の窮状――今後は仕組債が焦点に

年初早々こそロケットスタートに見えたが、2022年のグローバル市場は何とも荒れ模様だ。焦点の米FOMCを経て、先週(1月24日―28日)はダウ工業株30種平均が4週ぶり、ナスダック総合指数が5週ぶりにわずかに上昇に転じた。とはいえ、まだまだ波乱は続くとみた方がいいと思う。インフレへの対応が国家的命題になる中で、米国市場では今後の利上げのペース、幅、バランスシートを縮小に転じさせるタイミングやその規模感など、まだ不透明なことが多過ぎる。「だからダメ。上昇相場はもう終わった」と決めつけたいわけではない。今わかっていないことをひとつひとつクリアするまで、神経質なボラティリティの高い相場が繰り返されるだろう、ということだ。

ポジションが小型株と成長株に集中

さて、今回の相場をみながら、改めて日本の個人投資家のポジションの偏りを痛感している。大きく3つのポイントを指摘したい。ひとつのグループはマザーズを中心とする小型株やIPO(新規公開株)中心に活発に売買を繰り返すグループ。金利上昇、インフレ懸念が高まるなかで、急落に見舞われた。恐らくは下げ相場のなかで値ごろ感からの買いを入れ、さらに厳しい展開を余儀なくされた投資家が多いのではないか?もう一つの代表的なグループは米国を中心とするハイグロース株への極端な偏りだ。個別米国株のみならず、ETFや投資信託を通じて買っている層が急激に広がっていた印象。特に対面証券会社が兆円単位で売った投資信託を抱えてしまった個人(――前述の小型株中心の層に比べると、一般的にはもう少しシニアで時間軸も長いと思われる――)は、身動きが取りづらくなるだろうと思う。

実態が不透明な仕組債

残念な事態ではあるが、この二つのグループに関してはある程度は現状が把握できるし、良心的な販売業者、アドバイザーがそばにいれば、時間をかけて丁寧に解きほぐしていくことも可能だろう。筆者が今、最も心配しているのはこれとはまた別の層、仕組債を大量に買ってしまった個人投資家が少なくないと思われることだ。仕組債は、みかけこそ債券だが、実態はオプション取引を組み込んだ複雑な金融商品。よくあるパターンは個別株やインデックスに連動して、一定以下まで株価が下がらない限りは結構な利回りを享受できるというものだ。ただ、いったん株価が想定外の動きをし始めると、元本が大幅に棄損された状態で戻ってきてしまう。手数料も極めて不透明で、普通の個人にはどのくらいのコストを支払い、その裏側でどのくらいのリスクを背負っているのか、見極めるのはまず難しい。金融庁もこの不透明さ、販売の適切さについてこのところかなり問題視してきた。足元の株式相場急落で、予め定められたノックイン価格を下回り、大幅に元本が棄損した商品が急増しているとみられる。先に述べた小型株や米国を中心とするハイグロース株、投資信託はまだ、定量的にある程度把握することが可能で、その傷が癒えるまでの時間間隔も大雑把には想像できなくはないのだが、仕組債については実態がつかみにくい点が厄介だ。

最近は幅広い層で販売へ

ある富裕層向けのアドバイザーは最近、「本来、ある程度リスクの所在を理解していて、資産的にも余裕のある投資家だけに丁寧に販売するもの」だと話していた。確かにこのような世界はずっと存在している。しかし、現在では幅広く、それほど金融資産に余裕のない、普通の個人にも広く売られている節がある。まずネット証券でごく普通に売られている。また、1月27日(木)付けの朝日新聞は、「地銀 仕組債販売急増」との見出しで、最近の状況を報道。「銀行が進めるものならば安心だ」と広く売られていた様子を伝えている。もう一つ、最近では証券会社から独立したFA(金融商品仲介業者)が相当に売りまくっていた節がある。販売業者にとっては手っ取り早く手数料が稼げ、相場が順回転している間は顧客にも受けが良い商品だったはずだ。非常に安易に、簡便に仕組債を組成することで、FA向けビジネスを急拡大してきた証券会社も存在する。大手金融機関だから安心とは言えないのが日本の残念な現状ではあるが、最近はそれに止まらず質が良いとは到底言えない売られ方をしていたのではないか――。

オーソドックスな、無理のない投資をしている限り、今回の相場調整であたふたすることはないと思っている。しかし、そんな状況ではない投資家が急速に広がっているであろうことに、強い危惧を抱いている。


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