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“優れたビジネスモデル”を表彰する――第19回ポーター賞

今年もポーター賞の受賞式&関連カンファレンス「競争力カンファレンス2019」を取材してきました。今年で19回目になります。マイケル・ポーター先生は、みなさんご存じかと思いますが、競争戦略のまさに権威。そのポーター先生の冠をいただいた賞。ポーター先生は現在、ハーバード大学ユニバーシティ・プロフェッサーとしてご活躍で、今年はポーター先生が3年ぶりに来日しカンファレンスで登壇。ちなみにカンファレンスの前の日は安倍晋三総理と会談していました(首相動静)。

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企業の表彰にもいろいろありますが、この賞の特徴はどういうものなのか?ポーター賞運営委員、一橋大学大学院の大薗恵美教授に聞いてみました。

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ポーター賞は、業界の同業者と比較して収益性が優れている点は見てはいるが、それにとどまらずなぜ高い収益性が実現したのか?そのプロセス、仕組み、理由を具体的にきめ細かく調べる。その結果、非常に面白い理由でユニークな競争戦略を実践していてその結果として同業他社を上回る経営成績があるーー。このように理由がつながった時に初めて受賞に至る賞です。

というわけで、結果、成果、業績を評価しているのではないのですね。その結果に至ったプロセス、ビジネスの仕組みを評価する。ポーター先生流にいえば「競争優位に立つ戦略の本質は他者と違うことをする」ことが大事。独自性重視、簡単には真似できない仕組み。ひとを唸らせるようなビジネスモデルという感じです。2019年度の受賞企業・事業は以下の通り。

第19回(2019年度)ポーター賞 受賞企業・事業
エレコム   (6750)
エン・ジャパン(4849)中途求人メディア事業部
UTグループ (2146)マニュファクチャリング部門(UTエイム)
ワークマン  (7564)

カンファレンスでは一橋大学大学院の楠木建教授と経営者などが対談しそのビジネスモデルのポイントを明らかにしていきます。詳しい内容が知りたい方はぜひポーター賞のサイトをのぞいてみてください。

僕なりに咀嚼してみます。
まずエレコム。PC、スマホなどの周辺機器大手。工場を持たないファブレス企業です。一見してものすごく競争の激しそうな業界ですが、圧倒的に多くの商品数を投入、他社を大幅に上回る営業担当者が家電量販店の売り場に密着します。限界利益で管理し、見込みがなければさっさと引っ込める一方、次から次へと商品を投入します。その過程を権限移譲された現場のチームが仕切っているところがどうもツボのようです。

続いてエン・ジャパン、中途求人メディア事業部。求人広告の掲載料でビジネスが成り立つわけですが、この事業ではゴールを若手社員の入社後の定着、活躍に置いています。現実に近い内容を知ることができるように、すべてコンテンツ内容はエン・ジャパン自ら取材します。口コミサイトでは否定的なコメントも掲載。普通、こういう求人広告とは会社のいい姿を見せようとするものだと思いますが、ここは違う。だから実際に転職した人が定着し、活躍するというわけです。

もう一つ人材関連からUTグループ、マニュファクチャリング部門。製造分野での現場技術職の人材派遣・請負に特化しています。まずUTグループで無期雇用します。製造現場の人材派遣とは一般的に有期で安定しないイメージですが出発点から違います。研修・教育を充実させ、いろいろな派遣先の選択肢を用意して働く人のキャリア形成を図ります。結果として技術者の質が高く、離職率は低く、派遣先企業の評価が極めて高くなるという仕組みです。

そして、株式市場ではおなじみのワークマン。「なんとなく、すごく売れてるんでしょ?」みたいな理解だとしたら大間違い!建設現場向けのワークウエアを扱います。防水、防寒などはプロ仕様。でありながら低価格。流行り廃りがなく、製品寿命が長いことから、基本的に卸しは売り切り。値引きや廃棄もしません。品そろえや店舗レイアウトを全国共通でどこでも同じにし、フランチャイズの負担を極力軽くします。そしてアウトドアやスポーツテイストのデザインを取り入れて一般消費者にも受け入れられるようになってきたのが今年の株価ブレークの背景です。仕入れ、受発注を支える詳細なデータ活用もこのビジネスモデルのカギです。

まあ、一般論として「ビジネスモデルの優れた企業の株は買い」とは別に思いませんが、これらの企業の業績や株価はワークマンに限らず、少なくても中長期目線では概ね堅調と言ってよいと思います。

さてそのポーター賞も19回目。評価の軸は変わらないとしても最近の特徴みたいなものはあるといいます。そのあたり大薗教授に聞いてみました。

ここ数年、感じていることですが、リーマンショックの後、景気が急激に悪くなって、苦労された会社は多いと思います。ここ数年の受賞企業の中では、その苦労の中で、では自分たちはこの後どうやって生き残っていくのか?――いろいろと思案したと思います。生き残るにはやはりお客様から必要とされないといけない。どうしたら必要とされるのか――。「顧客のために価値を生む」ということを突き詰めて必死に考え、戦略を原点に立ち返ってもう一度考え直す。そうした試行錯誤の中から、面白い戦略に繋がっていったとという例がいくつかあります。危機が背中を押したとうことです。今苦労している業界の方は、会社全体の力を集めて、新しい戦略の方向性に向かって仕組みを作りなおす、いい機会だと考えていただければと思います。

そういうことですよね。危機とか転機などがあり、そこから復活する過程でより強くなることがありますね。例えば今回の受賞企業の中ではエン・ジャパン。リーマンショックで求人広告市場が急減。本来の戦略を変更して経験者をターゲットとし、成功報酬型の課金制度を入れるなどと採用企業側重視の仕組みに変えてみたもののなかなか成果が上がらない時期があったといいます。そして「働く人の定着、活躍」こそ重視するという原点に立ち返り、ようやく成果が出るようになったといいます。企業は(そして人も)何かの危機や壁にぶつかったときに、自らの姿を失ってしまいがちですが、そういう時こそ、原点に立ち返るのが大事。元気の出る話だと思います。

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