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“統合報告書”の先にみえる景色

11月24日(日)早稲田大学で開かれた優れた統合報告書を表彰する表彰式と関連シンポジウムをのぞいてきました。シンポジウムのテーマはガバナンス関連です。

まずは“統合報告書”ですが、正直、日本経済新聞などを眺めていてもそう毎日のように出てくる言葉ではありませんね。企業活動を報告するレポートですが、ざっくり言えば、「財務情報(決算情報とか有価証券報告書、アニュアルレポートなどなど)と、非財務情報(CSR報告書、企業理念、コーポレートガバナンスなどなど)をひとまとめにして分かりやすく企業が報告するもの」という感じでしょうか。数値情報だけでは分かりにくい企業の姿を伝えるツールとして、ここ数年、重要度は着実に増していると思います。

表彰主体はWICI(世界知的資本・知的資産推進機構)ジャパン。企業関係者、アナリスト、投資家、会計士・税理士、大学の研究者、あるいは政府関係者などの専門家が関わっています。グローバル組織の中のジャパンです。“よい報告書”の表彰を始めて今年で7回目。「統合報告書」という名称で発行している企業にとどまらず、幅広く上場企業の中から、分かりやすく企業価値を表現しているレポートを選考して表彰しています。

何はともあれ、2019年に表彰された企業は下記です。詳しくはWICIジャパンのHPをご覧ください。

第7回WICIジャパン「統合報告書優良企業表彰」
◇優秀企業大賞
日本精工(6471)
◇優秀企業賞
アサヒグループHD(2502)
コニカミノルタ(4902)
中外製薬(4519)
丸井グループ(8252)
◇奨励賞
日立製作所(6501)

大賞を受賞した日本精工を例に、統合報告書でどんなことが分かるのか、ざっと眺めてみましょう。日本精工は自動車、産業機械などの軸受け(ベアリング)最大手。そのほかに精密な部品などを手掛けます。2016年に創立100年を迎えた歴史のある会社ですが、ちょっと一般の人には分かりにくい、なじみにくいところがあるかもしれません。
そうしたこともこれありで、100周年の2016年に初めて統合報告書を公表、それが高い評価を得たことで、モチベーションが高まり、毎年工夫を重ねて今年ついに大賞受賞に至ったということです。

統合報告書の内容は、企業理念、会社の歴史から始まって、もちろん財務情報も。11年間のサマリーがざっと眺められるのはとても分かりやすいと感じました。今後の経営ビジョンや各事業部トップの考え方、社外取締役インタビュー。それからベアリングの基礎知識や用語集もある親切な作りで全体では80ページ弱です。

何といっても、企業トップ、内山俊弘社長のメッセージが見開き6ページにわたって掲載されているのが目を引きます。僕は、企業を理解する上で経営者の考え方に触れることは欠かせない要素と感じています。これだけ丁寧に、しかも毎年発信してくれるのであれば、その企業に対する理解は深まるだろうと思います。日本精工に限らず、統合報告書では、多くの企業が経営者メッセージに力を入れているようです。

また日本精工の統合報告書の一つの特徴ですが、この報告書自体に第3者による保証が付いています。統合報告書としての信頼性、正確性があるということを第3者(会計事務所)による保証を付けることで示している訳です。審査委員のコメントでも、この点は評価された点の一つとのことでした。僕自身も「へーっ、そこまでやるんだ」と思いました。

さて、この報告書、誰どんな風に使うのか?日経CNBCの視聴者様向けにいうならば、やはり投資を考えるうえで貴重な情報だと思います。決算短信、決算資料は基本的に1年とかあるいは3カ月ごと。アニュアルレポート、有価証券報告書であっても1年単位の報告です。長い歴史(僕は創業の経緯とか、それをどう継承しようとしているかなど、とても大事だと思ってます)から直近の業績、将来のビジョン、そしてトップのメッセージとか。あるいは実際にその企業ではどんな人が働いているのかとか。。。

実は足元の業績を見ると、日本精工には逆風が吹いています。自動車向け、産業向けは中国経済の減速などを背景に、20年3月期の計画も減収減益。10月末には大幅な業績見通しの下方修正をしました。株価も最近こそ、やや持ち直していますが、決して右肩上がりではありません。今回の表彰企業の中でも、中外製薬とか丸井グループは足元でも株価は上値追いですが、他の会社はそうでもない。

当たり前といえば当たり前ですが、統合報告書が優れている企業が、いつもよい業績で、いつも株価が右肩上がりというわけではありません。しかし、統合報告書を通じて企業の開示姿勢が優れていることが分かり、ガバナンス(企業統治)がしっかりしていて、トップのメッセージも明確ならば、むしろ業績や株価が低迷しているときこそ投資のチャンスかもしれませんね。統合報告書、開示姿勢とかガバナンスとは、そういう風にも“使える”ものではないかと思います。

統合報告書を使うのはもちろん投資家だけではありません。この日のセッションをいろいろと聞きかじっていると、結構、社内、従業員、グループ会社の従業員向けにメッセージを発する意図もあるようです。それから取引先とか、いわゆる幅広いステークホルダー(利害関係者)に見てもって理解が進む、統合報告書を材料にコミュニケーションが広がる、といったことがあるようです。

会場でいろいろな人と雑談してたら、要するに統合報告書は「会社に関することは何でもわかるもの(を目指すべき)」との声が聞かれました。例えば就活生が企業のことを知るにはうってつけだと思います。

統合報告書は普通は紙の小冊子ですが、もちろん企業のホームページからダウンロードできます。日本精工の場合、ホームページをのぞいてみたら、フォームに必要事項を記入すれば誰にでも送付してくれる仕組みです。日経CNBCをご覧の投資家のみなさんも、投資家ではないけど企業のことを知りたい方も、もしかしたら自分の会社のことを今一度理解したい方も、統合報告書を眺めて、その先に広がる景色に思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。

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