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高まる米大統領選“後”の混乱懸念――金融市場の不安要因に

9月以降、グローバルな、とりわけ米ハイテク株の調整圧力が根深くなっています。ここへきてさらに追い打ちをかけるように不安心理が高まっている背景が、米大統領選“後”の混乱に対する懸念です。9月25日(金)の日経CNBC朝エクスプレス、マーケット・レーダーでは「米大統領選後の混乱と円高リスク」というテーマで野村総合研究所・エグゼクティブ・エコノミストの木内登英さんにお話を聞きました。

大統領選を巡る混乱と言えば、2000年当時のブッシュvsゴア候補の時の混乱が思い起こされます。この時は大票田のフロリダ州で僅差の戦いとなったことなどから、大統領選から1カ月あまり、米国の大統領が決まらないという異例の事態となりました。今回、トランプ大統領は、コロナ対策で実施しようとしている郵便投票が不正の温床だとして裁判まで持ち込む構えを見せています。日本とは様々な点で選挙の仕組みが違います。確かに郵便投票で期日前投票した人が当日に二重投票するリスクが“ないとは言えない”との指摘はあります。それは多分“ないとは言えない”というレベルのものなのだろうと想像しますが、郵便で期日前投票をしようという有権者は、どちらかと言えば、高齢者でコロナに対するリスク意識の高い民主党支持者が多いとの見方が有力です。木内さんは「かなり高い確率で大統領選“後”の混乱が続く可能性が高い」とみています。

もともと、数カ月前くらいから投資銀行などの間ではこうしたリスクに備えて金融市場に対してヘッジを掛けるポジションを推奨するような動きはあったということです。大統領選のタイミングが迫るにしたがって次第に混乱が現実味を帯びてきているように思います。

選挙制度は民主主義の根幹。その信頼性が揺らぐような事態はかなり深刻です。木内さんは「米国型民主主義の信頼性に関わる問題」と指摘します。もともとコロナ対策、経済再開でも、米国や一部の欧州先進国よりも、中央集権的な、ある意味では権威主義的な中国などの国々がうまく展開してきた――という面がなくはない。判断や価値観は様々ではありますが、中国的な国家は、こうした米国の混乱に乗じる形で中国と同調するような国々の同盟を深めようとしています。コロナをきっかけに米中対立は先鋭化しているわけですが「さらに周辺の国家を巻き込んで対立が深まっていく懸念がある」(木内さん)と見えます。

日本市場にとっては米国を始めとするグローバル株式市場の調整圧力に加えて、為替市場での円高圧力も気掛かりです。コロナショック直後は基軸通貨としての米ドル需要の異常な高まりのせいもあって円高が目立たなかった面がありますが、これが和らぐに従って、「従来型のリスクオフの円高が進みやすい」(木内さん)面があります。

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さらに米欧の中央銀行が何かあれば一段の金融緩和の構えを見せているのに対して、日銀はコロナ対応の流動性供給には力を入れるものの、金融緩和姿勢では温度差があるようにも見えます。コロナ対策が前面に出て、世論も従来よりは円高に神経質ではなくなっている面もあります。木内さんは「昨年くらいまでは日銀は象徴的な水準として1ドル=100円を突破するような円高は容認しないようにみえたが、その水準自体がかなり変わっている」と見ます。例えば「1ドル90円台が定着して80円台意識されるようであれば、マイナス金利の深堀りなどで動くかもしれない」(木内さん)との見立てです。

さて、米国の政治情勢を巡っては、さらに混乱を深めるような動きが続いています。トランプ大統領は26日(土)、リベラル派のギンズバーグ判事が18日に死去したことを受けて、保守派の論客で知られるエイミー・バレット連邦高裁判事(48)を指名したのです。大統領選前に承認手続きが進むかどうか、共和党・民主党の激しいせめぎ合いが続きます。金融市場が最も嫌う不確実性の高まり。週明け以降の市場も不安定な動きを迫られそうです。

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