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<“1億総株主社会”とは何か?>全ての国民に証券口座を ベーシック・アカウント構想 野村総合研究所・竹端克利さん

岸田政権がある意味でイメージチェンジを図っている。「資産所得倍増」「1億総株主」などと旗を振っている。“新しい資本主義”の目玉政策として業界の期待も高まっているようだ。その目指すところは何か?そして本当に私たちのためになる制度改革、あるべき方向性はどのようなものなのか?いろいろなアイディアを紹介し、議論を闘わせたいと考えている。断続的に<“1億総株主社会”とは何か?>シリーズをnoteで展開しようと思う。第1回は9月1日(木)に日経CNBCにご出演いただいた野村総合研究所、金融ビジネスデジタルリサーチ部 竹端克利さんのテーマ「“貯蓄から投資”の実現へ ベーシック・アカウント構想」を軸に展開する。

冒頭、少々(僕にとっては)衝撃的だったグラフを紹介していただいた。2015年以降の「証券口座数(個人)の推移」と「個人株主数の推移」。2022年3月までの7年間に、証券口座数は763万口座、率にして34%増えている。しかし個人株主数はこの間に136万人、率にして約10%増えて1456万人になったに過ぎない。日本の総人口の15~16%程度。意外ではないか?そしてどういうことなのか?

「一人が複数の証券会社で口座を持つという動きが強く出て、全く株式投資をやっていない方が新しく始めたという動きは、言われているほど強くなかった」

念のため、このデータはあくまで国内株式の投資家の数だ。最近は積み立てで「米国株インデックス」などに投資する人も増えている印象だが……。

「各種のアンケートなどをみても、投資信託を保有している人の割合が、ここ5-6年で急速に広がっているかというとそうは言えない」

そしてかねて指摘されている通り、家計の金融資産に占める株式や投資信託などのリスク性資産の割合はちっとも増えていない。竹端さんの分析を通すと、なかなかにシビアな現実が浮かび上がる。

「金融資産残高の内訳では過半が現預金に集中。株式や投資信託などは時価ベースでみると残高が伸びたように見えるが、時価変動を除くとほとんど増えていない」

株式などはむしろ減っているではないか!まあ、値上がりすれば利益確定売りを出す傾向が強い個人投資家の特徴からして、これ自体は意外なデータではないのかもしれない。しかし、過去数年は①資産形成を後押しする制度面の整備が進む②フィンテック企業による投資未経験者向けサービスが拡充に加え、何より③「アベノミクス」による株高もあった。貯蓄から投資へ、貯蓄から資産形成へ――。滅多にないくらいの追い風が吹いていたのではなかったか?

「投資のすそ野が拡大する上での3つの条件が同時にそろった期間だったのは間違いない。それにも関わらず、(裾野の拡大という意味では)力強さには欠ける」

なかなかに根深い問題だと思う。そこで「ベーシック・アカウント(BA)」構想である。

「ベーシック・アカウントは全国民に自動的に付与し、証券は無償で受け取るだけで売買はできない仕組み。換金や売買は通常の証券口座に移管して初めて可能になる」

これぞまさしく“1億総株主”な訳だが、確かにほとんど投資経験のない人にも株式を持ってもらう以上、これくらいの慎重さは必要かもしれない。

「通常の証券口座では投資家の保護や犯罪利用の防止のために様々な対応が必要になる。それと証券を受け取って持つだけ、極めてベーシックな機能に限定した口座(ベーシック・アカウント)を分けて考える」

証券口座というものは、株式を持つだけではなく、売ったり買ったりできるのが当たり前だと思っている。なぜ、このような仕組みを構想したのだろうか?その背景のひとつが、冒頭に紹介した「意外と証券投資人口は広がっていない」というある意味で“不都合な真実”にある。

ここ数年に限らず、ある意味ではずっと、日本では投資家を増やすためのいろいろな試みがなされてきた。僕自身、個人投資家を主な対象とするメディアに関わる時間が長かったこともあり、「どうして個人投資家は増えないのか?」「なぜ、株式投資はこんなにも世の中で好かれないのか?」を考え続けてきたと言ってもいい。

「関心を持ってもらう。勉強する。お金を貯める……。いろいろなステップで、投資サービスにアクセスするためのハードルを下げるための努力がなされてきた。これはこれでとても大切だが、それでもなお現状にとどまっていることを考えると、別の発想が必要なのではないか」

それがBAの着眼点。すべての国民が「まず保有してみる」ということだ。もちろん、この構想を実装段階まで高めていくには様々な実務上の課題がある。

それでも、考えてみるだけの価値があるのではないか?
問題点を洗い出してみることには意味があるのではないか?
いろいろと議論しているうちに、本当に“1億層株主”が必要なのか?――ということになる可能性だってもちろんある。僕自身はそれならそれでいいのだと思う。現状を冷静にとらえ、データを踏まえ、そのうえで“特定の業界に有利”みたいな話でなく、本当に日本と世界の私たちが豊かになり、幸せになる方向性を見定めたいと考えている。

(追記)
実はこのベーシック・アカウント構想。7月に日本証券業協会が発表した「中間層の資産所得拡大に向けて~資産所得倍増プランへの提言~」でも「備考」として竹端さんの出所明記で取り上げられている。大々的に報道され、今年これから実際に動きそうなのは「NISA、Idecoの抜本的拡充」といったテーマだ。「備考」との位置付けになったのは「実装段階まではいろいろと検討事項がある」(日本証券業協会)ためだという。

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