見出し画像

帝国繊維への株主提案――銀行出身経営者の存在感が背景に

<帝国繊維への株主提案――英系ファンドが増配・自社株買い求める>
防災関連製品などで業績好調な帝国繊維(3302)。日本経済新聞などがすでに報じた通りですが、英投資ファンドのアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)が増配と自社株買いを求める株主提案をしました。3月末予定の株主総会で、①一株あたり40円を計画している年間配当を76円に引き上げること②発行済み株式の3%にあたる約20億円の自社株買い――が提案の骨子です。

AVIが指摘する帝国繊維のバランスシートや資本政策上の問題点は、例えば以下のようなもの。

・全資産の70%を利回りの低い現預金と投資有価証券が占めている
・資産の30%以上が、中核事業と関連のない不動産会社、ヒューリック(3003)の株式である
・「特別株主」(※筆者注、ざっくり言えば芙蓉グループを中心とする政策保有株主)の暗黙の支持によりこうした状況が看過されてきた
・結果としてROEが引き下げられ、株式市場における評価も低くとどまっている

これに対して、帝国繊維側は「防災関連事業は今後ますますの拡大余地があり、一定の運転資金、今後の投資資金は必要」との立場。実際に昨年12月には19年12月期の業績上方修正を発表しています。AVIも帝国繊維の事業の将来性、ビジネスモデルについては高く評価しており、1月29日(水)に開いた会見でも帝国繊維に投資する理由を問われ「我々が投資する際の基準は第一に割安さ、バリュエーション。そして優れたビジネスモデル。帝国繊維はこの2つを備える」(ジョー・バウエルンフロイント・AVICEO兼CIO、写真)と答えています。

現在、AVIと帝国繊維は頻繁に話し合いの場を設けているということです。真っ向対立しているわけではない面もありますが、配当や適切なバランスシートの形を巡っては、かなりの考え方の違いはあります。

<“極端なバランスシート” 背景に銀行出身経営者による劇的経営改革>
ところで、現在の帝国繊維のバランスシートがいささか極端な形に見える背景には、銀行と企業の歴史を紐解く必要があります。ここでは簡単にまとめます。帝国繊維資産の30%ものウェートを占めるヒューリック株式。このヒューリックの前身は、旧富士銀行が保有する不動産の管理会社だった日本橋興業です。富士銀行出身の経営者(西浦三郎・ヒューリック会長、元みずほ銀行副頭取)らが中心となって劇的な経営変革を達成、ユニークな不動産賃貸管理、開発会社として株式市場で高い評価を得るに至りました。もともと簿価の低い持ち合い株式だったものが、帝国繊維全資産の30%以上を占めるようになった背景です。かなり端折ってますが。

一方の帝国繊維。「帝国」を社名を冠する企業の例にもれず長い歴史があります。源流の日本製麻株式会社(近江麻絲紡織株式会社・下野製麻株式会社および大阪製麻株式会社が合併)が設立されたのは1903年(明治36年)。麻、繊維事業が日本では立ち行かなくなり経営危機に陥ったところを旧富士銀行出身の経営者(飯田時章・帝国繊維会長、元富士銀行常勤監査役)らが中心となって消防用設備や防災関連製品へと事業を転換することで生まれ変わりました。「防災という市場を作り上げてきた」自負があります。こちらもかなり端折ってすみません!いずれの企業も旧富士銀行出身経営者の強い存在感があります。彼らが経営を劇的に変革した結果、今の姿になっている点は興味深い。ある意味では“銀行カバナンス”時代の象徴的な事例にも見えます。

< “第1ステージ”主役のスパークスは事実上撤退>
帝国繊維に対する株主提案は、言わば“第2ステージ”です。“第1ステージ”の主役、スパークス・グループ(8739)が2018年、2019年の株主総会で増配や取締役任期の短縮、さらにはスパークスが推薦する取締役の選任を求めました。

一定の国内外の機関投資家から一定の支持を受けたものの、支持率は20%から23%にとどまりました。スパークスは最大時発行済株式数の6%以上を保有していましたが、昨年の株主総会以降徐々に株式の売却を進め、現在では1%以下の保有となりました。というわけで、株主提案の主体は英系のAVIへとプレーヤーが代わったわけです。

<問われる株主の責任>
さて、重要なプレーヤーが他にもいます。昨年のスパークスの提案でも岩盤となって崩せなかったとされるのがAVIの指摘するところの「特別株主」。みずほ銀行や明治安田生命、損保ジャパン日本興亜、丸紅などなどの芙蓉グループの株主は、株主提案に対してどう考えるのか、一段と明確な説明責任を求められます。株主総会を通じてまっとうな経営議論を闘わせる――。そうした当たり前のことが、日本でも当たり前になりつつあるようです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?