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【文庫化にあたって】1

2020年、世界を襲った新型コロナウイルスの感染拡大。 私たちはこの大きな試練に、どのように向き合えばいいのでしょうか――。

私は医師として、それも自律神経の専門家として、はっきり伝えておきたいことがあります。 それは、本当に恐れるべきは「感染ではない」ということです。

三密(密集・密接・密閉)を避け、新しい生活様式を実践する中で、感染を回避する最低限の注意は必要です。それは間違いありません。 しかし、新型コロナウイルスの実態があきらかになってくるにあたり、医学的な意味での「このウイルスとの向き合い方」も見えてきています。

ワクチンや特効薬が完成し、普及するまでにはもう少し時間を要しますが、このウイルスが人を強く攻撃し、即座に死に至らしめるのではなく、多くの場合、長く、弱くとどまり続けるという「生存戦略」を選んでいることも見て取れます。

●本当に怖いのは知らず知らずのダメージ

繰り返しますが、新型コロナウイルスに感染しないよう気をつけることはたしかに大切です。 しかし誤解を恐れずに言えば、過剰に感染を恐れ、人々の生活を極端に制限してしまうほうが問題だと、私は捉えています。

これは何も「経済を優先すべき」という立場からの意見ではありません。 あくまでも医師として、過剰に不安や恐怖を煽り、人々の生活を制限することは、私たちに別な意味でのダメージを与える懸念があるからです。

これまでと「まったく違った生活」を余儀なくされる。 この状況は知らず知らずのうちに、私たちの心と体に大きなダメージを与えます。

「なんとなく体調が優れない」「落ち込むことが多くなった」「つい、鬱々としてしまう」などの症状を訴える人は実際増えています。状況が長期化する中、この傾向はますます高まっていくでしょう。

「コロナ鬱」という言葉も一般的になりました。
「生活が変化して、ストレスが増した」「さまざまな側面で息苦しさを感じている」「体を動かす機会が減った」「人と会って話す機会が減った」「経済的な面でも、先行きが見えなくて不安」などの状況は心と体の状態を大きく乱します。

こうした状況が続くと、人間の醜い部分が露見しやすくなり、攻撃的になることは医学的にも証明されています。
DVやネグレクト、いじめ、差別、自分勝手な振る舞いが増えていくのは、医師の立場から見れば、ある意味必然です。

●自律神経が乱れ、体の不調も増える

直接人と会っておしゃべりをしたり、心地よく感情のやりとりをすると、オキシトシンという「幸せホルモン」が豊富に分泌されます。それだけ「幸福感」を得られるわけです。

ところが、コロナ禍によってこうした人とのふれ合いは減ってしまいました。 また、家の中だけで過ごす時間が増えれば、当然筋力は衰え、転びやすくなったり、階段から転落するなどの事故も増えます。

コロナとはまったく関係なく入院することになった患者さんでも、病院内で転倒・転落する事故が増えています。運動不足を起因として、高血圧や糖尿病の状態が悪化している傾向も見られます。

新型コロナウイルスの問題では「感染リスク」や「重症化リスク」あるいは「経済の問題」が多く取り沙汰されますが、実際には、より多くの人に関係している要素として、

・自律神経の乱れ
・メンタル不調
・筋力低下

などが挙げられます。ここを忘れてはいけません。メンタルが不調になれば、自死を選ぶリスクも高まります。新型コロナウイルスの問題が長期化する局面で、本当に恐れなければならないのは、むしろこうした部分だと私は捉えています。

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