イルカショー






俺は今、代々木カサグランデというマンションの1室でお笑い芸人5人でルームシェアをしている。


それを人に話すと「楽しそうですね」とよく言われるけど、実際にかなり楽しい。


メンバーは俺と、

ひわちゃん(一番温厚でムードメーカー)

坂田くん(一番熱くて男気がある)

平井くん(一番堅実で判断力がある)

ZAZY(ザズィー)

の5人。事務所は違うけど全員お笑い芸人の全員同期。



俺は途中から入居したんだけど、過去には1週間で出ていった芸人や、ソファと壁の間の30センチのスペースで暮らしていた芸人もいたらしくて、結果的にくるりと同じ回数のメンバーチェンジを経て今はこの5人で落ち着いている。




朝起きてリビングに行くと必ず誰かはいて、「おはよう」「おいっす」などの挨拶から始まり、夜になると誰かが人数分のご飯を作ってくれていて、地方に住んでいる女の子が上京を夢見て東京の物件を見て回る番組をみんなで「そんなところ住んじゃだめだよ!」「もっと探せばあるのに〜」とか言いながら食べる。それが終わると5人でイントロクイズをして「おやすみ」で終わる日常。林間学校の一番好きな時間帯がずっと続いてるような状態だ。



居住スペースの説明をしたいけど、「5人で3LDKの部屋に住んでいる」、そう聞くと狭い生活空間にそれぞれの荷物がごった返しているような、いかにも下積み芸人みたいな部屋を想像をするかもしれないけど、おせちを想像してほしい。海老があいつでこいつが伊達巻。それじゃオイラは栗きんとん。


それぞれの良さが詰まったお笑いのおせち。それが代々木カサグランデなのだ。





ウイルスが国内で広がりはじめた3月上旬。毎日何かしらの公演をやっている劇場が軒並み休館になった。


毎日テレビの収録でひっぱりだこな状況ならどうにか仕事仕事な毎日を送れたんだけど、俺のようなテレビにたまに、本当にたまーーーに呼ばれる、「テレビにとってあたしって何なんだろって感じ。………ねえ、聞いてる?寝てたじゃねーし(笑)」状態な芸人にとっては、大型連休スタートの合図だった。



話が最初に戻るけど、我が家は芸人5人で住んでいる。現状、主軸となっていたお笑いライブが根こそぎ無くなったにも関わらず、みんなは意外にも前向きだった。




「173時間ぶっ通しでYouTube配信しよう」


誰が言い出したかはあやふやだけど、家のメンバーで173時間ぶっ通しでYouTube配信をすることになった。

「173時間ぶっ通しでYouTube配信やることになるなよ」と今なら強く言える。


冷静に考えたら誰かがとめるべきだし、普通に生活出来ないことも目に見えてたけど、「お笑いでお金を稼いで暮らしていきたい」と決めた大人が5人集まって暮らしてる家っていう大前提が頭を巡ったときに完全に合点がいって、173時間配信は滑らかにスタートしていった。



内容は単純で、基本的にカメラの前で企画をしたり喋りながら173時間を回していく。



その頃は自粛期間に入る前で、噂を聞きつけた芸人たちが我が家に助っ人としてカメラの前に居れるかぎり居てくれた。これが本当に助かった。


173時間、【笑】と刻印された大きな鉄球を落とさないように腕の細い男たちで支え続けたような毎日だった。




緊急事態宣言が出されてからは、我が家では家に劇場セットを作ったり、自分で作った人形でコント映像を作ったり、ZOOM配信の大喜利大会で優勝したり、リモート収録という形でスクールオブロックの校長を務めたり、俺はテラスハウスの架空の新メンバーの恐ろしいイラストを描いたりして、それぞれがそれぞれのお笑い芸人をしている。


もちろん我が家だけじゃなく他の芸人も何かしらの形でお笑い芸人をしている。




それでもたぶん、「水中で息を止めながら活動している状態」みたいな、揺れる水面の中を目を凝らして見てもらうよりも、より鮮明なお笑いを見せたい気持ちは否めないと思う。こんな話をした訳じゃないから分からないけどたぶん。




子供の頃、家族でイルカショーを観に行ったのを思い出した。


お笑いファンの方を笑わせるのには、水面から飛沫を派手に散らしながら飛び上がり、尻尾でボールをキックするイルカショーみたいな「ライブ感」が必須だと思っている。水中を泳ぎ続けるイルカはウケない。





家にいると、ゴールデンレトリバーを8匹飼ってるのか?と思うほどZAZYの金髪抜け毛を見つけることがある。

リビング、トイレ、ベランダ、俺のベッドの上、どこに行っても金髪抜け毛と目が合う。長い抜け毛のくせに、陰毛のようなフットワークの軽さを見せつけやがる。そのたびに「くそが!」という気持ちになるのだ。


でもZAZYが舞台で笑いをとる姿を見ると格好いいなと感じる、「くそが!」を水に流すことができるのが仕事をしている姿だ。

「お客さんの前」が芸人の主戦場であることに変わりはないんだと思う。




でもそんな現状の中で、「ライブがない」ことがマイナスという空気感にもしたくない気持ちもある。


何が言いたいかというと、水中を泳ぎ続けるイルカを見ていたら、急に「おい!あいつ変な泳ぎ方してるぞ!」って言われる泳ぎ方をしたくて、「ジャンプしてるの見てえなあ〜」とはなるべく言わせないように、まったく別角度のコンテンツで楽しませたい。









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