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精神科疾病構造の変化

『日本の精神科病床は何故、未だに30万床のままなのか?』2021年6月号より

確かに、以前からすると統合失調症の初発患者の受診、入院は減少している(図①)(*1)。また厚生労働省も近年、長期在院患者の地域移行から多様な精神疾患の対応へと舵を切り替え始めたようだ。だからなんだろうか「精神科スーパー救急病棟」に勤務する看護スタッフが色んな学会、研究会の発表内容の中で、「3ヵ月以内」ではなく「3ヵ月の縛り」といった表現をしている。そして、そんな症例の「3ヵ月の縛り」を要する問題行動とは、精神症状からのものでなく、環境要因、処遇への反発による問題行動であることが、質問を繰り返す中で明らかになることがしばしばである。

【図①】

*1)当院が開院したのは、1957年(昭和32年)、64年前である。開院当初の新規受診者500名を調べてみたところ、F2 統合失調症が50%を超えていた。しかし、一昨年の新規受診者500名をみてみると、F2 統合失調症は10%程度である(図①)。他の医療機関でも各医療機関のHP等で知るところだが、最近のF2 統合失調症の新規受診者に占める割合はどこも10%前後だ。

ここで、この10年余り外来でかかわっている一人の女性依存症者患者のこれまでの経過を簡単に紹介したい。【離脱症状が出現した患者は県内の「精神科スーパー救急病棟」に入院となった。もちろん医療保護(非自発的)入院である。法的、治療的に何ら問題ない。そして、10日後には離脱症状は消褪した。本来、ここで医療保護入院から任意入院(自発的入院)、ないしは退院へ切り替えるべきだが、そのまま90日間入院を継続となった。医師が手厚く配置されているにもかかわらず・・・。その精神科病院を退院後、当院に来院し、それから外来通院を続け、アディクションリハビリテーションプログラムにも欠かすことなく通ってくれている。だが、彼女が反復性うつ病の重複障害であることが判明した。うつ病期にはレスパイト入院を促すも、「精神科スーパー救急病棟」でのつらい入院体験を抱える彼女は、未だにうつ病期の2週間程度のレスパイト入院でも拒み続けている】。今、こんな体験をした患者が急増している。とにかく「3ヵ月以内」より「3ヵ月の縛り」が病院経営的には魅力的なのだ。また、2020年度診療報酬改定で、再発、再燃予防に有効とされるLAI(持効性抗精神病注射薬剤)も包括病棟の「精神科スーパー救急病棟」等において、包括外使用が認められるようになった。にもかかわらず、その処方数の伸びは鈍いと聞く。きっと、再新規入院患者(前回退院後、3ヶ月間は精神科への入院歴がない患者)の要件を満たす時期になったら、怠薬等で再発、再燃してもらい非自発的入院で受け入れる仕組みが、LAIを使用するより、これも病院経営上望ましいのであろう。ただ、そんな入退院の繰り返しは、何れ患者も医療者も力尽きて社会的入院に至るものだ。私の若い頃には、それを回転ドアー症候群と呼んでいた。となると「精神科スーパー救急病棟」ってのは、単に先祖帰りってことだね。これでは精神科病床が減るわけがない。そして加えて、精神科疾病構造の変化を意識していなかったことから、「精神科スーパー救急病棟」における入院処遇に対して「3ヵ月の縛り」との造語が生まれたようだ。それはもちろん患者の人権に対する配慮に欠けることだし(図②)(*2)、医療経済的にもコスパが悪い。よって精神科医療現場に身を置く立場としては、山崎学が指摘する「統合失調症急性期モデルの経営は競争になる」に軍配をあげたい。

【図②】

ブログ『どうする精神保健指定医 ①』
*2)1987年(昭和62年)に改正された「精神保健法」(現、精神保健福祉法)の第20条では、「・・・、精神障害者を入院させる場合においては、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない。」としており、それは「・・・本人の人権尊重という観点から極めて重要である・・・」とも・・・。ところが近年、その任意入院の減少が続いている。逆に、医療保護入院(非自発的入院)が急増。これを全国の精神医療審査会は見て見ぬ振りしてないか?

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