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どうする精神保健指定医 ①

★その成り立ち

1983年、栃木県にある精神科病院、宇都宮病院で起きた不祥事の反省に立って、1987年にそれまでの精神衛生法が改正され、精神保健法が成立(後精神保健福祉法)した。そこで患者の自己決定権を尊重した任意入院を基本とする入院形態の仕組みが設けられた。
その設けられた仕組みの中で、病識欠如等で患者本人から治療の同意が得られず、やむを得ず強制的な入院(措置鑑定による措置入院、医療保護入院等)の判断を要する場合、さらには身体的拘束、隔離といった行動制限を行わざるを得ない場合については、患者の人権擁護の観点から慎重に行わねばならないとしている。そして、その判定を独占的に行える権限(国家資格)は、一定の精神科医療の実務経験を有する者(資料1)に与えられる。それが精神保健指定医である。
 

【資料1】精神保健指定医の新規申告について(資格要件)
【資料2】精神保健指定医の新規申告について(ケースレポート)
【資料2】精神保健指定医の新規申告について(ケースレポート)

追)5年に1度の再研修が義務付けられている。 

また、入院患者の人権を擁護する機関として、入院の必要性、処遇が適切かどうかを判断する精神医療審査会も同時に設けられた。いわゆる、精神保健指定医が適切な判定を行っているか否かを判断する機関でもある。

★精神保健指指定医の役割

2016年10月26日厚生労働省は、その精神保健指定医の資格取得に関して、2016年4月16日の聖マリアンナ医科大学の不正取得処分に次いで、全国26病院で不正取得があったとして、89人の精神保健指定医の資格取り消し処分を行っている。取得については厳しいのである。

ただ、2002年以後、任意入院の減少、医療保護入院の増加が続いている(資料3)。それは、2016年11月11日に行われた「第4回 これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」で配付された資料の中に載せられていたものである。しかし当時、その流れに歯止めをかける検討、議論が行われているといった噂話も聞いたことはない。

【資料3】

私は2018年秋、5年に1度の受講が義務化されている精神保健指定医資格更新のための研修会に出席した。そこではさまざまな症例に関する質疑がなされた。その多くは「(各々の)症例をどのようにして非自発的入院(主に医療保護入院)にすることができるか」との質問に対して助言者が巧みに助言~~。なんとも本末転倒、摩詞不思議な世界に身を置いていると表現するほかなかった。いや、何故「医療保護入院の増加が続いている」かが分かった。それは精神保健指定医研修会である。精神保健指定医の資格取得は厳しいが、取得しさえすればやりたい放題の術を教えてくれる研修会があった、ということ・・・。

★そしてさらに分かった「一目瞭然」

2021年から2022年にかけて25の有識者団体が集い行われた「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」では医療保護入院をなくそうとの議論がなされたようだ。その議論の結果、2022年12月に国会を通過した精神保健福祉法の改正では付帯事項に「医療保護入院の在り方速やかに検討」と明記された。
そこで、2022年時点の医療保護入院と任意入院との増減について、2016年に行われた「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」の資料を参考に作成してみた。なるほど、医療保護入院はさらに増加、近々にも任意入院と逆転してもおかしくはない、と危惧したものである。さらに興味本位に、日本精神科救急学会が提示している全国の精神科救急病棟取得状況の推移を重ね合わせてみた。何と一目瞭然ではないか(資料4

【資料4】

★そしてまた、精神保健指定医研修会に参加~

2024年1月19日5年振り、いや私の健康上の理由から1年延ばしていただき6年振りに精神保健指定医の研修会を受講した。
前回とは異なり、検討症例は2症例のみ。じっくり時間をかけて丁寧にということのようだ。ただ、症例①は自閉症スペクトラム・重度知的障害、症例②はアルツハイマー型認知症であった。『精神保健福祉法第五条定義:「統合失調症、精神物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、その他の精神疾患を有する者をいう。」』においては、何れも「知的障害」に属し、症例②の認知症、「長谷川式認知症テスト」の評価は「0」だ、と・・・。症例①も「成人の社会的・職業的・心理的機能を評価する尺度(GAF)では、もっとも低評価の10以下だと判断していい症例。よって、この2症例、素人目にも同意能力がないのは明らか。では何故、この2症例に約3時間の貴重な時間を費やすのか? 6年経って、またまた本末転倒、摩詞不思議な世界に身を置いていると表現するしかない。前回巧みに助言されていたベテランの精神保健指定医が今回も助言者の一人として・・・彼が一言、「この法は本来統合失調症、双極性感情障害のためのもの・・・」と。その通り・・・。では何故、統合失調症、双極性感情障害の症例を検討症例に選択しなかったのか? 多分、精神保健指定医のやりたい放題の作文作成と書類人権主義者の精神医療審査会で3ヶ月限定の医療保護(強制)入院との判定によって、ほとんど検討の要なしなんだろう。きっと!

余談1:資料2)の症例に関して、2016年の精神保健指定医の資格不正事件当時からすると明らかに様変わりしている。
当時、疾病構造の変化(資料5)は進んでおり、新規で顕著な急性期症状を有する統合失調症の症例作成は、既に容易ではなかったはずだ。2010年時点で統合失調症は3症例以上から2症例以上へと症例負担の軽減が図られている。そして今、統合失調症も1症例のみである そして、望ましいといった症例提出の仕組みもあるんですね。あの事件の処分、何か腑に落ちない。

【資料5】

余談2:今回の研修会で学んだこと、「精神病質」が精神保健福祉法第五条の定義から外されていた。いいことだね。
拙著「一億総活躍社会のメンタルヘルス 2017年発行」より、『~池田小学校事件から昨年の相模原障害者施設殺傷事件までで、精神保健指定医がその判定に最も苦渋しているのは、精神保健福祉法の精神障害者定義には含まれているのに、精神保健指定医取得のためのケースレポートの症例要件にはない「精神病質(パーソナリティ障害)」である。』

余談3:翌1月20日、徳川家康ゆかりの日光東照宮に行ってきた。雪の日光はとてもステキだった。

★今度は、孤独・孤立対策だって…

直近のことだが、「任意入院に努めよ」と聴こえてきた(資料6)。 なるほど医療保護入院と任意入院が逆転したんだ。

【資料6】

2024年1月26日朝刊各紙「重度の妄想性障害」、「完全責任能力認定」と・・・。
そして、今後の対策としては、2024年4月より施行される孤独・孤立対策推進法だ、と・・・

さて、どうする精神保健指定医!! 続く
(資料3、4、6は元号表記を西暦表記に変更 資料3の・・・点線と?、当時の私の戯事)
 

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