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依存症治療版「学問のすすめ」-改訂版-

●まずは初級編について、依存症拠点病院、専門医療機関とやらで色んな依存症の研修会が行われている。アルコール、ギャンブル、薬物、最近はゲームと依存症ごとの研修会が多彩である。何故そんなに分けるのか私には理解できない。研修資料も色々と渡されているようだ。そして、SMARPP、CRAFTといった技法、さらに少し畑違いかなとも思えるOPEN・DIALOGUEも依存症回復に有効といった書籍、ネット情報も巷に溢れている。だが、これら書籍、情報は現場でホボホボ役立たないと気付いたら、初級コース卒業と言っていい。ただ、そんな研修会、情報誌が不要とは言いたくない。私もそんな研修会のはしりである1976年に行われた「第1回アルコール中毒臨床医研修会」を受講している。当時は、3ヵ月入院の「久里浜方式」が流行だった。私は指導医だった国立療養所久里浜療養所(現・久里浜医療センター)副院長河野裕明医師に「3ヵ月間入院させる意味が分からない。地方の病院ではできるわけない」等とずい分噛みついて困らせたのを記憶している。でもその研修はとても有益だった。その理由は【資料1】の久里浜研修の件に書いている。関心のある方はお読みいただきたい。
また、信田さよ子原宿カウンセリングセンター所長も次のように語っている。「・・・私が危惧しているのは、治療や支援がことごとくパッケージ化していることです。CRAFTやSMARPPもそうですよね。アメリカから輸入されたこのようなプログラムは、ツールとして有用でも、支援がそればかりになっていくと、人の生き死にの物語が伝わってこない。アディクションの特殊性がなくなって平板化していくような気がします。力量に自信のない人たちが、とりあえず「専門家」であると思えるメリットもありますが」と。要するに、回復のイメージが育たないってこと!だから繰り返すが、「・・・現場でホボホボ役立たたないと気付いたら、初級コース卒業…!」
松本俊彦×信田さよ子「掘下げ対談 アデクションアプローチとハームリダクション」【『Be! 137』. ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)、Dec.2019】

●次は中級編だが、私の小著『依存するということ』の結びの一節 「地域に根ざした依存症対策とは、街かどから断酒会の連鎖握手の掛け声や、AA、NA、GAの12のステップの朗読が聞こえてくる日常が、当たり前になること・・・。そんな文化が地域社会で根づいたら、・・・こんな冊子はいらない。」と。この最後の文脈に共感できたら中級編は卒業。ただ、そんな当事者グループの集いの大切さは、断酒会の小林哲夫、日本ダルクの近藤恒雄、ギャンブル依存症を考える会の田中紀子等の自伝的著書でもふれている。そんな書籍のほうがもっと説得力があるのはもちろんことだが、『依存するということ』(幻冬舎 西脇健三郎著 2019年)も買ってほしい。  

●そして上級編、ひろゆき(西村博之)著 『ラクしてうまくいく生き方』(きづな出版2021年)だ。理由は非常に読みやすい、それだけ!
1章:自分の行動を変えてみましょう 2章:お金の使い方を変えてみましょう 3章:人間関係を変えてみましょう 4章:働き方を変えてみましょう 5章:心の持ちようを変えてみましょう、となっている。この本が依存症回復支援に有効だと理解できたら、あなたは上級者。そして、ひろゆき著『無敵の独学術』(宝島社2021年)がもっといい。そこに書かれている「真面目じゃなくていい」は、作家なだいなだが好きな「いい加減が一番」に通じるところがある。また、「無能であると自覚」は、AAの12のステップ「無力である」と同じだ。加えて、「上手な人からパクる」となると達人だ。

●1975年に出版されたグルメ本のはしり『おしゃべりフランス料理考』(著者:なだいなだ・平凡カラー新書・1975年)。40年ほど前、彼からいただいた自筆サイン、『料理の基本は ぬすみぐい つまみぐい』と・・・これ「上手な人からパクる」と同じこと。なだいなだは誰もが認める依存症治療の第一人者、達人だよね!(図表11)

(図表11)

ここまでのまとめ

◎拠点病院はいらない!拠点病院の研修は現場ではホボホボ役に立たない。普通の精神科病院で片手間にできる依存症治療の確立が大事!何となれば研修医のレポート作成の必須要件なんですよ!

◎支援センター等で行う相談業務とは、現状のスキルでは、まず無力である認識を持つこと。むしろ地域の社会資源の把握に努め、そのMAPを作成の上、相談者への必要な情報提供を行うのが大事!また、そのMAPは常に更新され、さらなる進化、充実は言うまでもないこと!

◎依存症当事者とその家族は社会的人間として接すべし!そのためには、『説得より納得』が大切!それは医療行為の基本「説明の上での同意」と同義。

★この3点は、自殺対策等の多様な精神疾患の精神科医療対策へも応用可能。 

★自殺関連記事の中見出しで「受け手の力量向上が不可欠」【西日本新聞2022年1月22日付】と、然りだ。 

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