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DinDon

主人が胆石の手術で入院する前日。家族で遊びに行ったハーバーランド。米国の彫刻家ジョージ ローズ氏の作品ディンドン。修復のために1年間里帰りしていた時期もあったそうですが、今も健在なのが嬉しいボールマシーンです。

あの時と同じように親子がいろんな色のボールがころころと上から落ちていく様子を見ています。

息子と主人はよくも飽きないものだと思えるほど、一つのボールが動くさまを見ていました。それを少し離れたところで私と娘は眺めています。

娘は小学校三年生。もう飽きたのか最初から興味がなかったのか早くほかに行きたそうでしたが、二人の様子がスローモーションみたいに、また水の中にいるみたいに何かそこだけ時間が止まっているようでした。

この日が親子で行った最後の日曜日です。

あれから早三十年。

入り口の目の前、あの時と同じ場所に立っています。

その時、雨が降りそうなので私は長傘を持っていました。いつもは車なのにその日は電車。空いていた電車で主人を真ん中に二人は楽しそうでした。私は向いの席で三人を見ていました。

夕方まで遊んで外は少し暗くなってきたので「そろそろ帰らないとアルがお腹を空かせて待っているよ」と言ったのも覚えています。「もう少しだけ待ってー!」息子はいつもならすぐに飽きるのですが、いつまでも父親と相対する位置で同じ赤いボールを追いかけています。その時間を二人はいつも以上に楽しんでいるようでした。

コロンコロンと優しい音を立てながら動いているボールの何とも優しい音も覚えています。

帰り際、建物の外、壁にひっそりと手相占いの鈍い灯り。座っている女性は物静かで小さな机を前に座っていました。「主人が見てもらおう!」と言い出しました。「これで家族全員見てもらえる?」とお札を一枚渡しました。女の人は少し苦笑いをして、娘、息子、私の順に。

最後に主人です。長い沈黙がありました。なぜか彼女は主人に伝えたそうでしたが、ありきたりな占いで終わりました。

「死相でも出ていたのかな」と冗談のように言ってましたが、その一週間後帰らぬ人になりました。

あれから三十年。沢山の親子が同じようにボールを追っかけています。

今日はそこから少し離れたところで何の感情も持たずにあの時のようにしばらく見ていました。

「まだあったよ」と息子に言いました。「ふーん」と言った短い返事にどんな感情が含まれているのかはわかりませんが、あの時の情景が彼にもよみがえったことでしょう。

いろんな家族、いろんな親子。それぞれに違う生き方をしているのを知っているかのように何度も何度も転がっては元のてっぺんに追いやられるボール。

時は流れていつの日か子供たちが家族を連れてくるのでしょう。

今日は久しぶりに少々センチメンタルな気持ちになった夏の昼下がりでした。

小さな幸せを大切にしたいものです。

今日もいい日にしましょう!


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