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ロバのパン屋

小さなころ頑丈な自転車に紙芝居の箱を載せてやって来るおじさんがいました。その場で完結のお話もありましたが、つづく…。と何やら思わせぶりなことばを私たちに残して、「また、おいで!」と言うのです。「いいところだったのに―」ともやもやした気持ちで帰りました。

おじさんは駄菓子も持ってきており何人かは棒の刺さった飴やせんべいを買って、食べながら話に耳を傾けていましたが、そのお菓子を買うことはありませんでした。おじさんには失礼なことですが、「おなかが痛くなったら大変!」と言う母の反対があったからです。

ロバのパン屋は予告もなしに突然やって来ました。本物のロバが陳列台のある小さなバスみたいな車を引っ張ってやってくるのですが、それは黄色で幼稚園のバスみたいでとても可愛かったような…。ロバのパン屋がチンカラリン~とテーマソングを流しながらやって来ます。

蒸しパンはピンクやグリーンでその他にはあんパンやチョコレートパンもあるのですがすぐに売れて同じ道を帰っていくのですが、その時もロバは首を垂れていつも元気がありません。

私はパンが食べたいというより一生懸命に荷台を引くロバの姿がなんとなく切なくて、またあの大きな黒い瞳が愛おしくてそれを見るのが目的でした。

正直パンはさほど美味しいものではないのですがきっとこのパンがたくさん売れたらロバもたくさん餌をもらえるのだと思い込んでいました。
哀愁のある姿は見ることが無くなりましたがいつまでもあの風景は残っています。

ところが昭和の終わりに姿を消し、令和にはなんと復活したと聞きました。コロナの時期重宝されたそうです。残念ながらロバの姿はなくすべて自動車となったようですが、四国や淡路島ではいまでも見ることが出来るそうです。

移動販売車は常に移動しているので見つけたらラッキー。
新幹線のドクターイエローみたいなもの。

テーマソングが遠くで聞こえたら走って探しに行ったあのころ…。
おとなしくしているロバの様子を見て「あ~いた、いた!」と心が跳ねました。

そんな思い出は動物好きの私にはなんだか甘酸っぱさで悲しいものでした。
いつもの路地やなだらかな坂道で見つけた時の嬉しさは格別でした。久しぶりにともだちに会えたような…。
そんな思い出あなたにもありますか?

今日もいい日にしましょう!





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