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ちょっとしたことだけど、それがいい。

上野駅から新幹線に乗って青森に帰るときのことです。全国旅行支援が始まったこともあるのでしょうか、ほぼ満席です。夏に新幹線に乗った時はそんなことなかったんです。これが日常に戻ることか、とか思いながら、嬉しいような、不便なような、複雑な思いを抱えて新幹線に乗り込みました。

私はうまくEの席(二人掛けの窓側)をとりました。当然、私のとなりにも誰かが座っていることを覚悟していました。案の定、お隣にはもうすでにどなかたか座っていました。

近くに来て、お隣はおばあさんだとわかりました。しかも、東京駅を新幹線が出たときでしょうか、座席のテーブルの上には駅弁のお寿司が5貫、今まさに、おいしくいただいている最中だったわけです。

私はどうすべきか、迷いました。おいしくいただいているところを邪魔するのは申し訳ない。しかし、満席だし、ずっと立っているわけにもいかず、自分が隣の席だと伝えました。

おばあさんは、ひろげたお寿司の弁当を一度片付けようとしました。しかし、お弁当についているお醤油をこぼして、テーブルの上に広がってしまったのです。私は、そのお醤油の広がったテーブルをすり抜けるようにして、座席に座りました。

おばあさんは、お弁当についていたお手拭きでお醤油をきれいにしようとしていました。しかし、明らかにお醤油の量が多く、ふき取り切れません。

私は申し訳ないと思い、おばあさんに、
「これ、使ってください」
と、ウエットティッシュを渡しました。おばあさんは、
「ありがとうございます」
と言って、テーブルをきれいにしていました。
私はその様子を片目で見ながらも、申し訳ない気持ちでした。デッキで待つ、という手もありましたから。少しずつ、ゆっくりと時間をかけて、おばあさんはお弁当を食べ終わりました。なんとなく、安心したような気持ちです。小さなお弁当をきれいに片付け、座席のネットに入れ、食事は無事に終わりました。

その後、私は本を読み初めましたが、うつらうつらときていました。

「…あの、これどうぞ」

眠りかけた私に、おばあさんは声をかけて、お菓子をくれました。お土産だったのでしょうか。ホワイトクリームのサンドクッキーが二つ。

「あ!ありがとうございます!!」

とお礼を言って、私は寝てしまいました。

私が目覚めたとき、今度はおばあさんが寝ていました。私はいただいたサンドクッキーを二つ食べました。なんかおいしい。ただの味ではなく、なんかおいしいのです。おばあさんが自分のかばんから、二つ出して私にくれた思いと一緒にいただくのですから、やっぱりなんかおいしいのです。

おばあさんが目覚めたとき、

「ありがとうございます。おいしかったです。」

とお礼をすると、

「こちらこそ」

と静かに言いました。そして、おばあさんは、仙台駅で小さく会釈をして降りていきました。

満員の新幹線の中ですから、たくさんのコミュニケーションはできません。本当にお互い、ちょっとしたことだけど、それがいいと思いました。ちょっとした気遣いが、人を幸せに導いていくのだと思った新幹線の旅でした。

                         三浦健太朗



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