雨の日
雨がしくしくと降っている。
暗く波紋が広がる道に灯りが揺らめいている。彼女はクローゼットに掛けてある厚手のカーディガンのことを考えながら、傘を差していない方の手で二の腕をさすった。
湿気を吸った髪の毛がうねり、それを直す余力もなく自宅へと帰っている。
ほどなくして雨脚は強まり、彼女の気力をさらに削いでいく。
カバンが肩に食い込んでいくことや、パンプスから露出した肌に撥ねた水や砂粒が付着していくことに不快感を覚えながら、ようやくアパートの軒下にたどり着いた。
身体が雨に濡れないように気をつけながら傘を閉じ、周りに人がいないことを確認してから、水滴を力の限り振り払いおとす。ほんの少しでもここで煩わしさを減らしたかった。
カバンから鍵を探し当て、ようやく扉を開く。
良い香りでもすればいいのに、じめついた部屋から吐き出されたにおいが呼吸を浅くさせた。
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