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人的被害のハウツー 1

前回は、野生鳥獣の農作物被害への基本対応を紹介させてもらった。
今回は、人的被害への備えを説明しよう。

野生鳥獣と人間が、思いがけず遭遇してしまう。そんな時鳥獣が逃げるか、それとも攻撃してくるかというのは予測がつかない。
人間が正しい対応を取れなかった場合、野生鳥獣がパニックに陥っている場合、その2つが重なった時に、人間は怪我を負いやすい。

まずは野生鳥獣を、人間の生活圏に入れないこと。
(この努力は作物被害の対策にも通じる)
そしてそれぞれの鳥獣に対する、出会った際の最善の行動を知っておくことだ。




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野生鳥獣が人里に下りてくる理由。
鳥獣側から見ると、こんな理由だと考えられる。

・人間が山間部から撤退したことによる、行動範囲の拡大
・里にある農作物や果樹、そうした放棄物による誘引
・人慣れによる、人間への警戒心の低下

行動圏を拡大して、自分が生きる為の資源を探す。それは野生鳥獣にとって当然のことだ。
それを一方的に「こっちに出てくるな」と押さえつけようとしても、「そんなの知らんわ」といった顔で彼らは里に出てくるだろう。
野生鳥獣がなるべく山から出てこないように誘導するには、そのきっかけをできるだけ排除して、出没の機会を減らすしかない。



そのきっかけとは何か?
それは農作物であったり、道端の果樹であったり、家庭菜園であったりする、彼らにとっての食物資源だ。それに野生鳥獣は大きく誘引されてしまう。

農地や家庭菜園は、鳥獣の防除策を行うのと同時に、収穫物の残りを投げ出したままにしないように気をつけること。タヌキやハクビシンを呼び寄せることにもなってしまうので、収穫残滓は土に埋めたり、廃棄処分してしまうことができたらベストだ。

道端や軒先にある果樹に関しては、実りがついた後、それを放置してしまうのが問題となる。カキやクリなどにはサルもクマも来る。実りがついたら、できるだけ早く回収してしまおう。
そこまで手が回らずに鳥獣の餌づけになってしまっているようなら、地域の為には伐採してしまった方がいい場合もある。地域住民での話し合いを忘れずに。

耕作放棄地に果樹が残っている場合も同じだ。所有者の合意を取って、早く伐採してしまいたい。手入れのされない放棄地は人が来ず、草丈も高く、しかも食べ物まであるなら、鳥獣にとっては絶好のすみかだ。
これを整備して見晴らしのいい緩衝帯に作り替えてしまえれば、野生鳥獣が潜む第一線を退けるという意味で、出没抑制に有効ではないかと思う。



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次に、いざ遭遇してしまった時の対応例を紹介するが、
話が長くなりそうなので一旦区切らせてもらいたい。



野生鳥獣の行動を、人間の主観で計ることはできない。
人間には人間の基準があるように、野生動物には野生動物なりの物差しによる判断がある。

彼らが選ぶのは、自分の生存にとって、リスクより便益が勝る方の選択肢だ。

人間に対して危機意識を持っている(高リスク)なら、自分の身を守る為に野生鳥獣は慎重になり、安全な山の中(便益;ベネフィット)にとどまりやすい。
逆に危機意識が薄くなる(低リスク)と警戒心は下がり、自分の生存に関わるギリギリの距離まで人間に近づき、作物を食べたり(ベネフィット)する。
そうした野生動物の思考は、これまで長い時間をかけて作られてきた、彼らの生存戦略だ。
私たちはそれを理解して、それを逆手に取ることで、鳥獣の出没に対応することができるはずだ。




2021.3.25


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