書籍発売に向けて、一部公開中|子どもの生活と遊びシリーズ 『人形の服ーお世話遊びを支える道具ー』
人形で遊ぶ子どもたち。そこにはどのような喜びがあるのでしょう。保育者たちが長年にわたって、お世話遊びを見つめ続けた保育実践が一冊の本になりました。
6月発売予定で取り組んでいたシリーズ第3弾『人形の服』が、ようやく出版に! 11月28日発売に向けて、一部を特別公開します。
0章 洋服クラブと人形の服 より抜粋
暮らしや経験を遊びに変える人形の服
人形を通して、子どもの心を発見する営み
日々の保育の中で、人形はどのような存在でしょうか? 子どもたちにとって、保育者にとっての人形とは? 子どもの育ちにとって、そこにどのような価値があるのでしょうか? はるか昔から子どものそばにいる人形という存在。
洋服クラブでは、人形の服を考える実践研究の中で、そこにある大きな価値を、子どもの遊びを通して学んできました。いま私たちにとって、人形は保育室に「ある」のではなく、クラスの一員として「いる」存在となっています。そして、人形の服が遊びを助けることを数多くの実践から実感しています。
人形には大きく分けて2つの遊び方があります。ひとつは子どもが人形をおんぶする、抱っこする、着替えさせる、寝かせるなどのお世話をする、人形が受け身になる遊びです。もうひとつは、人形の手足を動かして踊らせたり、歩かせたりする人形を能動的な主体として扱う遊びです。どちらの遊びも子どもの経験や暮らしの再現です。
子どもの経験や暮らしが、遊びの中で再現や模倣されていることは、考えてみると当たり前なのですが、日々子どもと関わり、子どもを知ろうとする上で重要な発見でした。子どもの暮らしは、朝起きて、朝食、登園、園での生活、降園、夕食、お風呂、睡眠の繰り返しです。そこに天気や季節、祝日や行事、体調や気分の変化など、いろいろなことが加わります。こうした日々の暮らしの中で、子どもは自分の気持ちを使い、自らの手を動かし、身近な人とのつながりを感じながら遊ぶのです。
雨の日もカッパを着て散歩を楽しんでいる園で、人形と一緒に雨の日の散歩を楽しみたいと、カッパをつくりました。雨の日がくると、子どもたちは自分だけでなく、人形の支度もして外にでかけました。一緒に雨に濡れて、濡れる人形に気を遣うことでより雨を感じます。乳児でも、人形用のおむつとおむつカバーを用意するとおむつを変えて遊びます。繰り返すうちに手の動きもスムーズになり、表情にも余裕が感じられる様になり、人形に微笑みかけたり、人形の胸にそっと手を置きあやします。
私たちは、人形の服は、その遊びを支え、お世話遊びをより、子どもの身近に引き寄せる道具だと考えます。そこには、ただ着せ替えるだけではなく、子どもの経験や暮らしを人形を通して遊ぶという子どもたちの姿があったのです。
洋服クラブが大切にしている
4つのポイント
1 人形の居場所をつくる
人形にも、子どもと同じように、名前と居場所をつくります。これは基本中の基本です。いつもいるベンチやベット、子どもにそれぞれ自分のマークがあるならば、人形にも同じようにマークをつくります。保育者は人形を片手で持ったり、モノのように扱わず、クラスの大切な一員として扱います。さらに、おんぶ紐、スリング、小さなハンガー、ハンガーラック、洗濯の物干し、洗濯ばさみ、おむつ交換台、ベビーカーなどがあると暮らしの再現ができます。
2 子どもの操作能力に合わせた服
子どもの身体機能、特に手指の操作能力に応じた服にします。ボタンの大小、ホック、ファスナー、ヒモ結びなど、段階的に考えて服を作ります。それは子どもの現実の暮らしと重なる行為です。遊びの方が現実より少し先を行くようにすると現実の暮らしに応用が出来ます。ヴィゴツキーは「遊びにおいて、子どもはいつもの彼の平均年齢を超え、彼の日常の行動を凌駕する」と述べています。人形を抱っこするためのおんぶ紐、スリングなども子どもが使いやすい形にすると僅かな援助、あるいは援助なしで遊べるようになります。これらは子どもを観察することで適切なものを準備できます。
3 着脱しやすい服を考える
人形は、人間のように自分で体を動かしてはくれません。ですから、工夫が必要です。袖口を広くし、袖を短めにしたり、袖ぐりや襟ぐりを広くとる。ズボンの胴回りのゴムを緩くしたり、丈を短めにする工夫などがあります。また、背中側でとじる服は、人形をうつ伏せにしないと着せられないので、前でとじるようにする、伸縮性のある生地を使うなどして、子どものやりたい気持ちを叶える服を作ります。
4 暮らしの場面、季節に合わせた服
陽射しの強い日に、帽子は欠かせません。人形も一緒に散歩するならば、忘れずに帽子を被せます。人形のお世話を通して、子どもたちは陽ざしや温度、風、雨に敏感になっていきます。季節感も大切です。夏には甚兵衛をつくり、雪が降る頃には、子どもたちと毛糸の帽子やマフラーを作るのも楽しみの一つ。暮らしに合ったもの、季節に合ったものを使うことで現実の生活とマッチして豊かな感覚が芽生えていきます。
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