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書籍発売に向けて、一部公開中|子どもの生活と遊びシリーズ 『人形の服ーお世話遊びを支える道具ー』

人形で遊ぶ子どもたち。そこにはどのような喜びがあるのでしょう。保育者たちが長年にわたって、お世話遊びを見つめ続けた保育実践が一冊の本になりました。

6月発売予定で取り組んでいたシリーズ第3弾『人形の服』が、ようやく出版に! 11月28日発売に向けて、一部を特別公開します。


『人形の服ーお世話遊びを支える道具ー』
子どもの生活と遊び研究会 樋口正春 増山由香里 著
発売日:2023年11月28日 定価:2200円(2000円+税)
B5版/112p カラー 発行:庭プレス

0章 洋服クラブと人形の服 より抜粋 

暮らしや経験を遊びに変える人形の服
人形を通して、子どもの心を発見する営み

日々の保育の中で、人形はどのような存在でしょうか? 子どもたちにとって、保育者にとっての人形とは? 子どもの育ちにとって、そこにどのような価値があるのでしょうか?   はるか昔から子どものそばにいる人形という存在。

洋服クラブでは、人形の服を考える実践研究の中で、そこにある大きな価値を、子どもの遊びを通して学んできました。いま私たちにとって、人形は保育室に「ある」のではなく、クラスの一員として「いる」存在となっています。そして、人形の服が遊びを助けることを数多くの実践から実感しています。

人形には大きく分けて2つの遊び方があります。ひとつは子どもが人形をおんぶする、抱っこする、着替えさせる、寝かせるなどのお世話をする、人形が受け身になる遊びです。もうひとつは、人形の手足を動かして踊らせたり、歩かせたりする人形を能動的な主体として扱う遊びです。どちらの遊びも子どもの経験や暮らしの再現です。

子どもの経験や暮らしが、遊びの中で再現や模倣されていることは、考えてみると当たり前なのですが、日々子どもと関わり、子どもを知ろうとする上で重要な発見でした。子どもの暮らしは、朝起きて、朝食、登園、園での生活、降園、夕食、お風呂、睡眠の繰り返しです。そこに天気や季節、祝日や行事、体調や気分の変化など、いろいろなことが加わります。こうした日々の暮らしの中で、子どもは自分の気持ちを使い、自らの手を動かし、身近な人とのつながりを感じながら遊ぶのです。

雨の日もカッパを着て散歩を楽しんでいる園で、人形と一緒に雨の日の散歩を楽しみたいと、カッパをつくりました。雨の日がくると、子どもたちは自分だけでなく、人形の支度もして外にでかけました。一緒に雨に濡れて、濡れる人形に気を遣うことでより雨を感じます。乳児でも、人形用のおむつとおむつカバーを用意するとおむつを変えて遊びます。繰り返すうちに手の動きもスムーズになり、表情にも余裕が感じられる様になり、人形に微笑みかけたり、人形の胸にそっと手を置きあやします。

私たちは、人形の服は、その遊びを支え、お世話遊びをより、子どもの身近に引き寄せる道具だと考えます。そこには、ただ着せ替えるだけではなく、子どもの経験や暮らしを人形を通して遊ぶという子どもたちの姿があったのです。

洋服クラブが大切にしている
4つのポイント

1 人形の居場所をつくる

人形にも、子どもと同じように、名前と居場所をつくります。これは基本中の基本です。いつもいるベンチやベット、子どもにそれぞれ自分のマークがあるならば、人形にも同じようにマークをつくります。保育者は人形を片手で持ったり、モノのように扱わず、クラスの大切な一員として扱います。さらに、おんぶ紐、スリング、小さなハンガー、ハンガーラック、洗濯の物干し、洗濯ばさみ、おむつ交換台、ベビーカーなどがあると暮らしの再現ができます。

2 子どもの操作能力に合わせた服
子どもの身体機能、特に手指の操作能力に応じた服にします。ボタンの大小、ホック、ファスナー、ヒモ結びなど、段階的に考えて服を作ります。それは子どもの現実の暮らしと重なる行為です。遊びの方が現実より少し先を行くようにすると現実の暮らしに応用が出来ます。ヴィゴツキーは「遊びにおいて、子どもはいつもの彼の平均年齢を超え、彼の日常の行動を凌駕する」と述べています。人形を抱っこするためのおんぶ紐、スリングなども子どもが使いやすい形にすると僅かな援助、あるいは援助なしで遊べるようになります。これらは子どもを観察することで適切なものを準備できます。

3 着脱しやすい服を考える

人形は、人間のように自分で体を動かしてはくれません。ですから、工夫が必要です。袖口を広くし、袖を短めにしたり、袖ぐりや襟ぐりを広くとる。ズボンの胴回りのゴムを緩くしたり、丈を短めにする工夫などがあります。また、背中側でとじる服は、人形をうつ伏せにしないと着せられないので、前でとじるようにする、伸縮性のある生地を使うなどして、子どものやりたい気持ちを叶える服を作ります。

4 暮らしの場面、季節に合わせた服
陽射しの強い日に、帽子は欠かせません。人形も一緒に散歩するならば、忘れずに帽子を被せます。人形のお世話を通して、子どもたちは陽ざしや温度、風、雨に敏感になっていきます。季節感も大切です。夏には甚兵衛をつくり、雪が降る頃には、子どもたちと毛糸の帽子やマフラーを作るのも楽しみの一つ。暮らしに合ったもの、季節に合ったものを使うことで現実の生活とマッチして豊かな感覚が芽生えていきます。

目次
2…はじめに

8….第0章 洋服クラブと人形の服
8…洋服クラブって何ですか?
9…子どもの生活と遊び研究会について
10…洋服クラブが大切にしている4つのポイント
12…洋服クラブの目指すもの
15…洋服クラブの考えるお世話遊びって?
16…洋服クラブの考える人形の選び方

19…第1章 人形の服の紹介
20…基本の服01 おむつ・おむつカバー
22…基本の服02 上着
24…基本の服03 ズボン
26…基本の服04 スカート
28…基本の服05 ワンピース
30…基本の服06 シャツ・パンツ(下着)
32…基本の服07 スタイ・エプロン
34…基本の服08 スリング・おんぶ紐
36…基本の服 基本の上着のバリエーション
38…基本の服 基本のズボンのバリエーション
40…基本の服 一覧
42…応用の服01 帽子
44…応用の服02 くつ・靴下
46…応用の服03 ジャンパー
48…応用の服04 ポンチョ
50…応用の服05 レインコート
52…応用の服06  スノーコンピ
54…応用の服07  マフラー
56…応用の服08  甚平
58…応用の服09  パジャマ
60…応用の服 一覧
62… 人形と生活するための道具

19…第2章 実践編
68…人形遊びは、子どもによる育児
70…着替え
72…おむつ交換・トイレ
74…お出かけ
78…ごはん
80…お風呂 / 眠る
81…人形のための環境をつくり、子どもを知る

82…第3章 理論編
83…ごっこ遊びにおける人形の意味と役割
84…まねごとから始まるごっこ遊び
85…人形の世話をする意味
86…幸福感を再現すること
88…すべてを受け入れてくれる存在
90…よくある疑問
92…まだまだ奥深い人形の世界

94…第4章  番外編

95…Q&A
108…まずは裁縫の基本から

110…おわりに

付録 型紙
・おむつカバー
・上着
・ズボン
・ジャンパースカート
・ワンピース
・シャツ(下着)
・パンツ(下着)
・スタイ
・エプロン
・リュック型おんぶひも
・ドアノブ型の帽子
・つば広帽子
・チューリップハット
・モカシン型の靴
・靴

書籍情報
書名:『人形の服ーお世話遊びを支える道具ー』
著者:子どもの生活と遊び研究会 樋口正春 増山由香里
編者:藤田進 葛原信太郎 堀内好美
撮影:青山吏枝(drop around)
デザイン:青山剛士(drop around)
著発売日:2023年11月28日 
定価:2200円(2000円+税)
B5版/112p カラー 
発行:庭プレス

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