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Passionista(パッショニスタ)#1

Notiziarioインタビュー

第1回 L'Anfora シェフ 本間 泉 さん

 「熱い情熱を注ぎ込む人、傾けている人」を特集するパッショニスタ。今号は、ミモザの会でもお世話になった古町アンフォラの本間シェフです。イタリア料理の中でもシチリア料理をメインとした料理を展開し、2017年に在日イタリア商工会議所より、イタリア本国による正統イタリア料理認証を受賞した経緯をお聞きしました。

シチリア料理との邂逅

ー なぜシチリア料理をメインに取り組まれるようになったのですか。

 シチリア、シチリアってこだわっているいる訳ではないんです。向こうに(イタリアに)行ってから、シチリア料理が、イタリア料理だけどイタリア料理じゃないということを知りました。サルデーニャとシチリアは、やはり異質で独特の文化だから、日本のイタリア料理の中で新しい風を入れるという点においては、やりやすいと思ったんですよ。

 僕ら世代の先輩たちがイタリアの都市部で修行をしてそれを日本に持ち帰って広め、自分たちの世代でもう少し奥へ入って行って、それをまた広めたと思います。そして今の若い世代のシェフたちは、もっと奥へ奥へと行っていますよね。イタリア料理を枠で捉え、次にゾーン、そして今は点で料理をする世代になってきているなと感じます。
 イタリア料理って、どの地方も自分たちの郷土料理には保守的じゃないですか。シチリア料理ってのは、島に様々な文化が入ってできた料理のはずなのに、超保守的なんです。「俺たちはイタリア人じゃなく、シチリア人だ。」っていうくらいですから。

 僕は、イタリアに行ったら絶対に朝の魚市場に行って、その土地のその日捕れた魚たちを必ずチェックします。
 そのあと一般の市場にも行って。地元の人たちがその日に採れた食材で何を日常的に食べているか見ることにとても興味があるんです。イタリア料理の華やかなイメージからは考えられないかもしれないけど、シチリアの家庭では、朝にイワシのスープが定番ってくらい根付いていて、それはなぜなのかを紐解くと、売れ残ったイワシをどうにかして調理して食べているシチリア人の暮らしが垣間見えるんです。日本食だって同じだけど、日本人だって寿司だの、天ぷらだの、すき焼きだのって、毎日食べてるものではないですよね。イタリア料理でも同じ。そんな思いから、その土地の人が生活するための、人々の暮らしに根付いた料理に焦点を当てたいと思ったんです。

ー では、華やかなイタリア料理をイメージしているお客様に提供する際は、どちらをメインに出そうか悩みますよね?

 そうなんです。やっぱりお金を出す以上、いい物を食べたいというお客さまが多いですよ。それは仕方がないので、メ二ユーの中に少し入れるくらいにしてます。それでもふらっと、食に興味のある人が頼んでくれる時もありますよ。まあ、それはそれでいいとも思ってますけど。
 まだ通貨がリラの時代、市場で町のオヤジたちがゆでダコやイワシの塩焼き、カタツムリをつまんでる光景を見たんです。町のそこら中にカタツムリの殻が捨ててあったりして。でもそれを見て、これでいいなと思ったんですよね。僕は、根本的に日本人が日本でイタリア料理を提供するってこと自体が変な話だと思っていて。所詮外国人の僕らが、これがイタリア料理ですって言って出しても、説得力なんてないのは分かってるんです。だから、僕はせめてイタリアのルールだけは守ろうって思う派なんです。そこが崩れちゃうと、僕の中では創作料理になっちゃうと思っています。料理は解釈と表現だと思いますが、今の取り組みは私の解釈です。

自分にとってのイタリア料理とは

ー 世の中にはいろんなイタリアンがありますもんね。

 そこはもうシェフの考え方一つだと思ってるんだけど。イタリア人がイタリアで醤油使ってイタリア料理作るぶんには、イタリア料理だと思うんですよ。でも日本で、日本人シェフが醤油使ってイタリアン作ったら、そりゃもう日本食だろって僕は思うの。だから、イタリア認証ってのは、僕個人のひとつの表現にすぎなくて。創作はしないよっていう宣言にもなってます。別に誰かに言おうとか、そんなんじゃなくて。

ー そのイタリア料理認証についてお聞きします。日本でも受賞者は少ないと聞いていますが、どのような賞なのですか。

 たくさんあるお店の中でもイタリア料理って看板を掲げているのに、誤解を与えるお店も同時に増えて、ならばこそ、きちんとやっているお店には認証マークを与えましょう、っていうのが始まり。彼らの言葉をそのまま引用すれば、「これはイタリア本国と同様の質の高いサービスと料理を提供しているイタリアンレストランに授与される認証マーク」です。
 様々な条件を満たすことが必要で、例えば、メインが郷土料理のメニューとなっているかに始まり、オリーブオイルを3種類使っているか、イタリアでの修行経験は何年か、イタリア語でメニュー説明ができるか、ワインは80%がイタリア産か、パスタの種類は、産地指定のオリーブオイルか、などなど、30項目以上あります。だからこそ創作料理では受賞はできないかなと思っています。

ー ものすごく厳しい審査基準のように思います、大変でしたよね。

 2017年に受賞したんですが、2014、2015年くらいに書類提出してるんです。暫く連絡なかったので一体どうなってんだ、と思ってたらある日突然連絡がきて(笑)。その時点で、全国で70店舗くらい。今は100店舗くらいあります。最初は27店舗から始まったようです。

自分の立ち位置

ー どんなことがきっかけで、応募されたんですか。

 きっかけは、自分の立ち位置を知りたかったからです。イタリア料理店がコンビニ並みにどんどん増えてきて、せめてお客さんに自分の立ち位置を踏まえて、どういうお店かを見せるために応募したんです。いろんなイタリア料理がありますし。普段の生活の中にイタリア料理も入ってきたことや、スーパーの食材で簡単に作れるようになったことなど、この20年で大きく変化したのを感じていたこともあります。」

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▲ イタリア料理認証授賞式にて(左から三番目が本間さん)
ー 確かに、新潟にも様々な形のイタリアンが登場しています

 これからもいろんなイタリア料理があっていいし、多様性もあっていいと思うんです。でも僕はいつも直球、ど真ん中にボールを投げたいと思っています。他にもいろんな分野において多様性が生まれると思うんだけど、結局は本質的な、普遍的なものに戻ると思っています。だって、元をたどれば、やっぱりそもそもおかしなことをやっていると思っているから。だからど真ん中は守りたいって思うんですよね。そこをやらないと僕の中ではイタリア料理でないと思っています。若い子たちにしてみれば、時代遅れと思われるかもしれないけど、僕は普遍的なものを守ろうと思うんです。例えば、新潟の郷土料理を10個知らない人間が、イタリアの郷土料理を作るっておかしいと思っていて。生まれ育った故郷の料理も知らないで、違う国の郷土料理作って提供していこうって、とても難しいテーマなんだぞってね。その覚悟を持ってイタリア料理を作るんだと思ってほしいんです。ただオシャレだからとかでやれるものではないと思うから。

ー なぜ本間さんはイタリア料理を始めようと思ったのですか。

 僕が料理を始めた頃、和食は全国どこ行っても、京懐石だったんです。そこがつまらないと思ってイタリア料理に転向したんです。でも、今でも根本的には和食が好きですよ、日本人ですし。

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▲ 店内で燦然と輝くイタリア料理認証の認定証書とパネル
ー では最後に、本間さんがこれから、もしくはこれからも情熱を傾けていきたいことはなんですか。

 僕は普段イタリア現地の人が食べてる料理が好きなんです。目的と手段だとは思いますが、この先もずっとこの新潟でそういう料理を目指していきたいとは思います。このまま新潟市内でやっていくかは分からないけど(笑)。最終的にはやっぱり景色のあるところで商売したなとは思います。

ー 現在の店舗は外装から内装まで、まさにイタリアっぽくてとても素敵だと思いますが。

 今のこのお店にする前は、バールとかまだ早いかなと思ってたんですよ。まだまだ、高級イメージでいい物出すイタリア料理の時代だったし、お客さんもそれを求めて来ていましたし。
 でも今の時代、若いシェフでも田舎でやっている人が増えたけど、羨ましいですよ。どこでお店を開いてもい自店の表現を発信し届けることができる、いい時代になってきてると思います。

守り続けること

ー 最後になりますが、将来的には今のようにイタリア料理のルールを守りながら、新潟の田舎でお店をもつということですね。

 いずれ日本もイタリアのように都市部と地方都市の役割が明確になっていくと思うんです。この10年で日本も一気に加速しましたから、あとはその土地に合わせたことをするだけだと思っていて、だからイタリア料理と看板をあげた以上、これからもルールは守ろうと思っています。日本人には、日本人風にいじった料理の方が喜ばれるのも知っていますし、100%イタリアのものより、何か混じってたり、入っていたりする方が日本人にはしっくりくるのも分かるんです。そういうように理屈じゃない馴染み方や、何か感覚的なものが、不思議とあるとは思います。でも、お店に来たイタリア人たちに、うまい!って、ありがとう!って言われて、それてないのかなと思う自分がいるんです。僕はそこでしか判断ができないかなと思っています。
(おわり)

聞き手:新潟イタリア協会 渡邉 江里子

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