【Interview】岩根卓司さん
千歳園通所リハビリテーションに通う、岩根卓司さんを紹介します。『朱鷺が宿る森』は、何重にも紙が貼られ、朱鷺の羽の色も緻密に表現された、木や草、川の奥行きが感じられる大作。リハビリの一環で始まったというこちらの絵について、岩根さんご本人にお聞きしました。ファイルに保管されたたくさんの切り絵も見せてもらいました。
現在の制作スタイルになるまで
まずは、何度も紙を重ねる切り絵作品をつくるようになるまでのお話について聞きました。
NASC:色の表現がひとつひとつとても細かくて驚きました。いつから切り絵を始めたんでしょうか。
岩根さん:私は頸椎損傷で手が不自然でね、ここ(千歳園)でリハビリをお願いしたんです。リハビリの中で空いた時間がありまして、貼り絵をしませんかと薦められました。ところが手が不自由なもんだから、紙をちぎれなかったんです。それでハサミでちょんぎりながらつくっていきました。
その後、職員さんが用意してくれた「大人の塗り絵」の花の絵を再現しようとしたところから、ハサミでもやりやすい切り絵に変わっていったと言います。
「花の絵を拡大してもらってね。1月から12月までつくりました。ここから切り絵になった。手のしびれがあってカッターは使えないから、ハサミを使ってつくっています。」
「大人の塗り絵」に掲載されていた花の絵を完成させた岩根さんは、次は季節の風景にとりかかり、さらにその次は「日本の名山」を再現するようになりました。作り方もどんどん緻密になっていき、「次は境界線を無くしてみよう」「色の段階を細かくしよう」など工夫を重ねて、徐々に今の作品のカタチになっていったそうです。
そして3年ほど前から、ふるさとの佐渡の風景を題材にし始めました。
「だんだん欲がでましてね。ふるさとが佐渡島なもんだから、佐渡の風景を思い出して原画にしましょうと。最初から自分で描いた。ただしね、ときどきインターネットで調べて参考にはする。」
職員さんにインターネットで調べて出してもらった写真を参考にしたりしながら、海や山、朱鷺の飛ぶ佐渡の風景を一つ一つ切り絵作品にしていきました。
工夫と創作意欲
岩根さんの切り絵を見て印象に残った特徴について聞いてみました。
NASC:細かくギザギザと切ってある表現が多いですが、これはなぜでしょうか?
岩根さん:ハサミしか使えないから、ほとんど直線しか使えないんですよ。多少は曲線もできるが…。それからね、海にしても夕日にしても、一色だとつまらないから、自分なりに(考えて)色を変えてみた。上手かどうかは知らんがね。
NASC:なるほど…朱鷺の羽の色も複雑ですね。
岩根さん:最初、ピンク一色でやってみたけど、これは朱鷺じゃないんですよ。なかなか面倒で……三色にしたら朱鷺らしくなってきた。観察はけっこうしますね。テレビで朱鷺が出てきたら、ああこういう感じなんだな、とか。
「朱鷺が宿る森」は他の絵と違い、A4の紙1枚ではなく4枚を並べてA3サイズになっている大きな作品です。A4サイズの絵を4枚貼り合わせてつくられた、今までで一番大きなサイズの作品とのことです。朱鷺の羽の色と季節を合わせたり、餌場を表現したりとリハビリの範囲を超えた力の入れ具合にも驚きました。
NASC:岩根さんの創作への興味や意欲はどこから来ているんでしょうか。
岩根さん:絵は半世紀以上なんにもやってきていないよ。ここへ来て、やってみたら(と言われて)、でだんだんこうなった。職員の協力なしにはできていないね。
作品をつくって出してみた今の気持ち
「朱鷺の宿る森」が新潟県障害者芸術文化祭で選ばれる少し前から、施設内の文化祭などで絵を発表する機会が増えてきた岩根さん。今年も出品する絵の構想を練っているそうです。
インタビューが終わり、帰る間際に岩根さんはこんなことを話していました。
「本当は私はね、退職したら畑したり釣りしたりできたらいいなって思っていたけれど、それがぱーになった。それでね、あるとき職員さんがこういったんですよ。ケガしたためにね、切り絵に出会えたんじゃないですかと。たしかに、それがなければ作品は生まれなかったね。」
限られた時間の中でのインタビューでしたが、岩根さんの切り絵への情熱や楽しんでいる様子が節々から伝わってくる時間でした。
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