音楽が終わり、かわりに音声が船内に流れて、飛行船が目的地の上空にさしかかったことを説明し始めました。
「......目的地の上空に入りました。もう大昔の出来事になってしまいましたが、今を去ること......」
地上には黒い海のような巨大な穴が、果てしなく、どこまでもひろがっていました。
「......この大きな穴が地上に生まれた時、なぜこのような穴が出現したのか、どうやって出来たのか、かつてそこにあったものはどこへ行ったのか、多くの疑問に対して、無数の調査、研究が行われましたがその結果も虚しく、いまだにその原因は......」
飛行船は、大きな穴の上空を、大きな穴の真中を目指して飛んで行きます。
やがて飛行船は、雲ひとつない青空の一角に停まりました。
どちらを向いて、見渡してみても、穴の縁は遥か遠く彼方に霞んで見えません。
何という大きな穴でしょう。
やがて飛行船は、ゆっくりと穴の中へ降下し始めました。ゆっくりと穴の中へ降下していきながら、飛行船の外側の壁に等間隔に並んだ窓が開いて、中からひとつひとつがひと抱えくらいの大きさの玉が、一斉に外へ放り出されるように投下されました。
落下する速度を増していく飛行船が、先に落ちていく玉が描く輪の中心に到達したとき、全ての玉は花火となって炸裂しました。
不思議に音のない世界に開いた光と色彩はやがて穴の奥へと消えていきます。
もし飛行船の中から外を眺める意識のあるものがいたならばそれはどんなに美しい光景だったことでしょう。

#小説

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?