美しい男は、玄関で靴を脱ぐと、さわやかな風のように部屋の中に入ってきた。
男の周りを、くるくると飛び回る天使が三匹、桃色の花びらを宙にまき、ラッパを吹きならしていた。

「紹介するわ」
とまり子がいったので、父も母も、驚きや警戒の色があからさまになってしまった顔つきや居住まいをとりあえずは正して、その美しい男をしばらくは黙って紹介されているより他になかった。
「いや、しかし、実に、美しい」
と父が
「本当に美しい方ね」
と母が、同時に、偽らざる感想の言葉を思わず口から漏らした。

ふわふわと舞い落ちる花びらを、てのひらで上の方へあおいで、舞い上がらせながら
「考えてもみて」
とまり子は、自分に間違いがないか、慎重に考えながら、言葉を続けた。
「恋人が、美しくあっていけない、ということはないでしょう」
「そうですよ」
男は、笑いながら、鈴のような声で
「こういうことは、考え方次第ですから」
というと、不安そうに見守るまり子の両親の方に目をやって
「お父さんもそうですよ、お母さんも」
「美しくあっていけない、ということはないのよ」
まり子は言葉を続けた。

もちろん、まり子はすでに十分に美しかったのだから、これで、その場に美しくないものは、誰もいなくなった。

光り輝く室内の光輝を背にして、まり子は、窓から外を眺めた。

暮れていく空を、無数の天使が、沈みゆく日を追うようにして西へと飛んでいく。
もう一度慎重に考えてみたが、やはり、間違いはどこにもなかった。
輝く地平のような美しさは、地球の上を、すべるように広がっていった。


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