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山本義隆「福島の原発事故をめぐって いくつか学び考えたこと」みすず書房, 2011.7

福島第一原発の処理水(処理途上水?汚染水?)の海洋放出について保守言論界隈では喧々諤々けんけんがくがくだ。

個人的にも今回の処理水放水については「何故、今?」という不可解なところが点があり賛同できなかった。マスコミ報道が、処理水の放出に伴う中国の海産物禁輸に対する抗議に集中していることも、政官財が真実から目をそらそうとしているのでは無いかと感じさせた。

そんなとき山本義隆の著書「福島の原発事故をめぐって」を思い出した。2011年 福島原発事故の年に発刊された書籍だ。

山本義隆は、ノーベル物理学賞で有名な湯川秀樹の薫陶も受けた物理研究家・科学史研究家。学生運動で東大全共闘のリーダーをつとめたため、その後は駿台予備校で物理学を教えている(私も先生の授業で物理学を垣間見せてもらった学生の一人)。

山本義隆の「福島の原発事故をめぐって」が発刊されたときには、反体制的な先生らしい発言だと思いスルーしていた。

しかし、原子力専門家だった武田邦彦が原発の再稼働や処理水の海洋放出に反対し、その理由を「日本人が嘘つきになったからだ」というのを聞いて、本書を読み直してみた。

この書には武田邦彦の懸念と同じ事が書かれていた。

また、山本義隆は次のように述べる。

経験主義的にはじまった水力や風力あるいは火力といった自然動力の使用と異なり、「原子力」と通称されている核力のエネルギーの技術的使用、すなわち核爆弾と原子炉は、純粋に物理学理論のみにもとづいて生みだされた。

三・五 原発ファシズム、「福島の原発事故をめぐって」

また、次のようにも言っている。

実際、原子力(核力のエネルギー)はかつてジュール・ヴェルヌが言った「人間に許された限界」を超えていると判断しなければならない。

同上

これは、人間の認知の限界を念頭において漸進的な進歩の必要性を説いた保守主義にも通じる考え方だ。

国家を構築したり、そのシステムを刷新・改革したりする技術は、いわば実験科学であり、「理論上はうまくいくはずだから大丈夫」という類いのものではない。

P.124、エドマンド・バーク「【新訳】フランス革命の省察「保守主義の父」かく語りき」PHP文庫

最後に、日本の科学技術の発展に心血を注いだ初代南極探検隊隊長にして技術者である、西堀榮三郎の言葉を記す。これこそ技術者倫理というものだ。

技術に携わる者は、技術の結果が未来社会や子々孫々にいかに影響を及ぼすか、公害、安全、資源などから洞察、予見する。

技士道十五ヶ条 十四 西堀榮三郎

参考書籍

一応、個人的には過渡期の原子力利用には賛成だ。カルダシェフスケールの観点から人類は滅亡の危機に瀕する前に速やかに巨大なエネルギーを使えるようになるべきだと考えている。


日本の危機を広く知ってもらうため日々noteで投稿しています。あわせて日本復活に必要と考えている新しい技術・産業についても書いています。