日本語の輸出入メカニズム(輸出編)
鶴田知佳子
前編は日本語への輸入についてであったが、本編では輸出について考えたい。
輸出:ローマ字
日本語からの輸出、と言うことでは、今度はローマ字の出番である。
輸入について一応カタカナにすれば日本語に出来るのと同じく、輸出したいときはローマ字にすれば事足りる。あるいは表面上はそれでコミュニケーションをとったかの幻想が生まれる。
新国立競技場の看板の例で、イベントスペース(これも和製英語だが!)を「Joho no Mori」としていた、というのはその例だ。居酒屋のメニューで、「Piiman no Nikuzume」と、そのままローマ字表記で書かれた例があったが、これは日本語を知らない外国人にとっては何の情報にもならない。
もっとも、なんでも訳せばそれが美味しくいただけるメニューとなるのかは別問題である。王将(Ohsho)のウェブサイトで「ホルモンの味噌炒め」を英語で調べると「Horumon:Sauteed pork intestines with Miso Sauce」と出てくる。今回、取材をいただいたThe Guardian 紙の記者があげた例としては、焼き鳥店のメニューで記者が好きな「軟骨」をknee cartridge とされているのをみると、全く食べる気がしなくなるという指摘があった。
輸出:日本語そのままとして英語になったもの
他にも、すでに英語である程度定着した言い方としては味噌はmiso 豆腐はtofu 大根はdaikonゴボウはgoboであると思うが、いずれも、bean paste, bean curd, Japanese raddish, burdock などというのよりは、日本語そのままとして英語になったものを利用してもらった方がはるかにわかりやすいし、食欲もわくだろう。
ただし、それは原材料となっている食材を知っている人に限られる。その点では、略語が通じるのか、通じないのかは日本語がある程度わかる外国人であるか、どうかということと通じるものがある。コミュニケーションが成立するのか、成立しないのか。同時通訳を生業とし、また研究者の端くれでもある筆者にとって、かくも深く興味がつきないテーマである。さらに項をあらためて、「輸入後の加工技術」「英語になった日本語」について論じることとしたい。
全くの別物
それにしても、テレビの情報番組をつければキャスターが「GO TOトラベル除外を決めるべきは政府」という意見が多数ある、と語り「mRNAワクチン」の開発は「ゲームチェンジャー」になるか、と語っている。
もはや輸入ことばがなければ日本語は成り立たない。現状はそうなっているのであるが、輸入されてそのあとで日本語として使われて進化したプロセスを逆に辿り英語に戻すのは不可能である、つまり輸入プロセスは不可逆的である、すでに日本語になっている英語(外国語)ともとの英語とは全くの別物であるということを認識し、その使用において厳密に区別できるようにするのが、「日本の英語」を良くするための第一歩ではないかと思う。
(2020年12月1日)
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