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【2023Word】「ダブル合体」カタカナ英語でイメージアップ

2023年12月18日
鶴田知佳子

英語を換骨奪胎して、自分たちの知識と発想で、元の言葉と似て非なる、あるいは元の言葉ではこんな使われ方はない、といういわゆる「カタカナ英語」にする天才が日本人である。実によく実態が表されていてわかりやすい表現のカタカナ英語に感心することが時折ある。
先日、あるイギリス人とお昼を食べる場所を探しているときに目にはいったのがキッチンカーの文字。このイギリス人が「今日の定食」を表に出した和食の店に惹かれて入ることにしたので、キッチンカーのお世話にならなかったが、実にわかりやすい表現とあらためて思った。

日本人は自分たちの知っているカタカナ英単語を二つ並べて、英語圏には存在しない語を次々と生み出す。いわゆるダブル合体基本形だ。「日本の英語を考える会」の理事の一人、アン・クレシーニが代表的な例として挙げる和製英語「ベビーカー」は、発音、聞き取りやすさ、耳で聞くだけで実物をイメージできる、などの点で実にわかりやすい。また日本人は一度その語のイメージが定着すると次々と応用を生み出していく。「アップ」がその典型で、イメージアップ、キャリアアップ、レベルアップなどと「よくなる」「明るくなる」イメージがあるように思う。

また横文字で名付けられる日本の会社の名前にもダブル合体が多い。まさに「イメージアップ」を狙っているのだろうが、最近ニュースで話題になった会社名として、不適切な保険金額請求があった中古車販売大手「ビッグモーター」や、同じく中古車販売の「グッドスピード」は、もとの英語のポジティブなイメージを活かした名前である。タレント事務所の名称に選ばれた「スマイルアップ」もそうであろう、

ほかにこのダブル合体基本形の「パーツ」としてよく使われるのが、タイムアップ、ゴールデンタイムなどの「タイム」。ちなみにtime upは、time is upが正しい英語だし、テレビで視聴率がとれる時間帯をさすGolden Time は、Prime Time。先日、バイデン大統領は全米向けに大統領としては二度目のPrime Timeの全国放送スピーチを行った。「ポイント」も組み合わせとしては、アップポイント、チャームポイントなどと使う。あるデパートでは、アップポイント週間などと称して、この一週間は特別にポイントが多くつくなどというのをそのように称している。

では、アップの反対のダウンはどうか。運動する人の目的の半分は「サイズダウン」ですか、などと言われる。size down はわかりやすいが、英単語の組み合わせを英語で言う場合にはone size downとなる。しかし、日頃英単語を便利にカタカナにして使っていると、何が英語では言えるのか、言えないのかがわからなくなってきている。そこがカタカナ英語をネイティブが聞いた時の問題にもなる。

結論としては何を表現したいのか、その表現をするためにもとは英語の単語の組み合わせでできているカタカナ語の表現であっても、それがネイティブ英語話者に、意図している意味で伝わるかどうか。最初に出した「キッチンカー」の例は、これは英語でfood truck でも、キッチンカーのほうが直感的にわかりやすい。もし今後日本が文化的にもっと英米と接近すれば、ひょっとしたら数世紀後にはkitchen car がfood truckを凌駕して…などと思ったりするがなかなかそうはならないだろうし、そうであれば、やはりカタカナ英語を「作り」「使う」私たち日本人が「これはあくまで日本人同士の言葉である」と意識していくしかないと思っている。カタカナを並べた社名についても、国内の目を意識するだけで良かった時代、単に日本人にとって耳ざわりがよい、というだけで社名を決められた時代はもう終わっているはずなのだ。

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