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【行政HPの英語】防災編①

新連載「行政HPの英語」、第一回は「防災」です。地震や台風など、日本は世界でも有数の自然災害大国で、日ごろから防災についての知識を備えるだけでなく、いざというときに避難や支援の情報を適切に得ることは命に係わる重要な問題です。

阪神大震災の時には、日本人の死傷率が約1%であったのに対し、外国人の死傷率は約2%と高く、これを機に、政府主導で各自治体における多言語サービス対応や「やさしい日本語」の普及が推進されるようになりました。しかし、自治体HPにおける防災関連情報の英語化の現状は必ずしも十分なものとは言えないようです。

本稿では、英語話者のためのわかりやすい「防災」HPについていくつか提言をまとめます。

1.防災タブは画像データではなく文字データとして保存すべし

前回記事でも言及しましたが、防災情報のまとめページへのリンクがアイコンとして画像化されているために、AI翻訳エンジンが訳出できていない例を見かけます。アイコンやイラストなどに埋め込まれた情報は必ず文字情報に変換しましょう。

2.「防災」≠ Disaster Prevention

多くの自治体HPが災害関連の情報を「防災」の項目にまとめ、日常の備蓄や防災訓練の案内などから、実際に災害が発生した時の緊急安全情報までを網羅しています。「防災」の文字どうりの意味は「災害を防止する」ことですが、現実に災害が起きた時の緊急情報も「防災」タブの下にまとめられていても、日本語話者にとってはさほど違和感はありません。

一方、「防災」を英訳するとどうなるでしょうか? AI翻訳では「防災」⇒ 「Disaster Prevention」と直訳されることが多いのですが、この表現だと災害Disaster の予防 Preventionとしての意味合いしかなく、災害発生時の安全確保のための情報までも網羅されているとは、英語話者には想像できないでしょう。英語話者向けには、緊急安全情報のみを切り出して、「Emergency Response」あるいは「Safety Information for Emergency」などの見出しを付ける方がわかりやすいでしょう。
ちなみに、災害予防は、Disaster Preventionのほかに Disaster Preparedness(災害への備え)と表現してもよいでしょう。

3.多言語対応していないリンク先へは誘導しないこと

多くの自治体が、災害時の緊急情報入手先として、自治体独自の災害安全ネットワーク(防災ラジオやメール配信など)を推奨しているのですが、その多くが多言語対応していないようです。英訳ページからのリンク先は、英語での利用が可能な情報入手先であるべきでしょう。(たとえば、内閣府「防災情報ページ」、気象庁「多言語による気象情報」NHK World Radio東京都防災HP、国土交通省観光庁「Safety Tips for Travellers」、政府観光局「Japan Safe Travel Information」など)

4.「救急ボイストラ」をもっと知ってもらおう

全国の救命救急センターでは「救急ボイストラ」という多言語音声翻訳アプリの導入が進んでいます。「救急ボイストラ」とは、NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)が開発した音声翻訳アプリ「ボイストラ」をもとに、NICTと消防庁消防研究センターが共同で開発した、救急隊用に開発した専用の音声翻訳アプリです。最新の総務省のデータによると、全国の95%の救急隊で導入済みであり、その普及率は極めて高いといえます。

ところが残念ながら「救急ボイストラ」の存在を明記した行政HPは、筆者が確認したところほとんどありませんでした。(東京都内の公式HPを持つ約60の自治体のうち、記載のある自治体はゼロ。神奈川県横須賀市のHPでは明記されているのを発見しました。あくまでも個人の「目検」なので、もしかしたらどこかに記載のある自治体もあるかもしれませんが、少なくとも、横須賀市以外はわかりやすい記載は見当たりませんでした。)

各自治体には、ぜひ、救急ボイストラの存在を広く告知していただければと思います。(参考: 横須賀市「助けを呼ぶときの電話のかけ方」

次回は「防災」その2として、頻出ワードや英訳しにくいワードについて解説、考察します。お楽しみに!

(文責 楠田倫子)


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