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灰色だったエリアは闇夜に光る 映える工場夜景、引き寄せられる人々

 名所旧跡めいしょきゅうせきでもない。無機質むきしつ機械きかいぐんが、よるには観光地かんこうちける。それが「工場夜景こうじょうやけい」だ。十数年前じゅうすうねんまえよっつの工業都市こうぎょうとし注目ちゅうもくされるようになり、「え」をねらっていまなおおおくの愛好家あいこうかめかける。最近さいきんでは、人気にんきをつけ、工場夜景こうじょうやけいりにクルーズを企画きかくする自治体じちたい相次あいつぐ。なにが「え」させるのか。
 「想定以上そうていいじょう人気にんき今年ことしもすぐに予約よやくまるのでは」。7月8日ようかからの「夜景遊覧やけいゆうらんクルーズ」の募集ぼしゅうまえに、愛知県東海市商工労政課あいちけんとうかいししょうこうろうせいか担当者たんとうしゃこえはずませる。
 知多半島ちたはんとう位置いちする東海市とうかいし臨海部りんかいぶには日本製鉄にほんせいてつ大同特殊鋼だいどうとくしゅこう愛知製鋼あいちせいこうなどの工場こうじょうならぶ。よる市街地しがいちからながめても一部いちぶしかえない。だが、よる遊覧船ゆうらんせんれば1時間じかん10ぷん、ナイトクルーズで工場群こうじょうぐん夜景やけいたのしめる。
 昨年さくねんは8~10がくけい4日よっか8便びん定員計ていすうけい320人で催行さいこう工場こうじょう景観けいかん愛好あいこうする「工場萌こうじょうもえ」のファンで、募集初日ぼしゅうしょにち午前中ごぜんちゅう予約よやくまった。そのため今年ことしは8~11月に計10日20便、定員計850人(料金りょうきん5900~6600円)と倍以上ばいいじょうやした。

昨年はすぐに予約で定員がいっぱいになった夜景遊覧クルーズ=愛知県東海市提供

目立めだった名所めいしょがない市内しない観光客かんこうきゃくやし、知名度ちめいどアップにつなげたい。をつけたのが地元じもと夜景やけいだった。工場夜景こうじょうやけいりにする都市としあつまり「全国工場夜景都市協議会ぜんこくこうじょうやけいとしきょうぎかい」=ひょう=には2020年度ねんど加盟かめいした。クルーズは19年からはじめた。船上せんじょうでワインをったり、和楽器わがっき演奏えんそうしたりと様々さまざまこころみをしたうえで、工場見学こうじょうけんがくえらべる現行げんこう方式ほうしきいた。
 参加者さんかしゃへのアンケートから、集合場所しゅうごうばしょ名鉄太田川駅周辺めいてつおおたがわえきしゅうへん宿泊しゅくはくし、食事しょくじをするなど経済効果けいざいこうかにつながっていることも確認かくにんできた。担当者たんとうしゃは「いずれは商業しょうぎょうベースにせ、クルーズの回数かいすうをもっとやせるようにしたい」。

遊覧船から見た愛知県東海市の工場夜景=市提供

工場群こうじょうぐんはかつて公害こうがい象徴しょうちょうでもあった。その夜景やけい観光かんこうにいかすみが、川崎市かわさきしなどで本格的ほんかくてきはじまったのは15年ほどまえ同市どうしびかけて北海道室蘭市ほっかいどうむろらんし三重県みえけん四日市市よっかいちし北九州市きたきゅうしゅうしによる「全国工場夜景ぜんこくこうじょうやけいサミット」を2011年に初開催はつかいさい
 その全国工場夜景都市協議会ぜんこくこうじょうやけいとしきょうぎかいもできた。現在げんざいは10道府県どうふけんの13市村しそんが、ふねやバス、電車でんしゃめぐ旅行りょこう開催かいさいしている。
 昨年さくねん4月に、協議会きょうぎかいあらたに加盟かめいしたのが「日本一にほんいちリッチなむら」ともわれる愛知県飛島村あいちけんとびしまむらだ。
 「灰色はいいろのイメージしかなかった場所ばしょよるにはあんなに魅力的みりょくてきな場所になるなんて以前いぜんりませんでした」。そうかたるのは、飛島村役場とびしまむらやくば職員しょくいん伊藤友恵いとうともえさん。昨年あった飛島沖とびしまおきを巡る遊覧船ゆうらんせんクルーズでアナウンスやくつとめた。
 クルーズは昨年9月~今年ことし3月に計8日けいようかあり、県内外けんないがいの631人が参加さんかこんシーズンはあき予定よていしている。
 名古屋市なごやしとなりにあり、国内最大級こくないさいだいきゅうのコンテナターミナルをかかえるむら村内そんない埠頭ふとうがある名古屋港なごやこうは、あつか貨物総量かもつそうりょう全国ぜんこく1だ。コンテナをむガントリークレーンがならさまは、夕暮ゆうぐどき逆光ぎゃっこうでキリンにえる。「日本にほん一番いちばんキリンがならぶ村」としょうされる。
                             (中略)

ガントリークレーンが立ち並ぶ愛知県飛島村の飛島ふ頭=2024年6月12日、臼井昭仁撮影
ガントリークレーンの愛称「キリン」が並ぶ飛島ふ頭。愛知県飛島村はその風景から「日本で一番キリンが並ぶ村」とPRしている=同村観光交流協会提供
昼間の四日市コンビナート=2024年6月11日午後5時37分、三重県四日市市、臼井昭仁撮影
三重県の四日市コンビナートの夜景=四日市観光協会提供

工場夜景こうじょうやけいが、いまなお支持しじされるのはなぜか。
「それぞれにちがった魅力みりょく特徴とくちょうがある」。こうかたるのは、毎年まいとし、工場夜景のカレンダー「THE FACTORY STYLE」を制作せいさくしている写真家しゃしんか青木秀道あおきひでみちさん(60)=神奈川県鎌倉市かながわけんかまくらし=だ。
 石油精製せきゆせいせいコンビナートには「ダイナミックなタワー」、パイプがめぐらされた化学工場かがくこうじょうには「幾何学的きかがくてき機械美きかいび」、製鉄所せいてつじょには「昭和初期しょうわしょきにタイムスリップしたかのような錯覚さっかくおぼえる」という。
 「昼間ひるま見逃みのがしてしまう『日常にちじょう姿すがた』がよるになると変貌へんぼうし、ひかりはなつホタルのようなものになる。そんな非日常ひにちじょうこころさぶる」


                 (2024年7月2日 朝日新聞 臼井昭仁)


〈ことば〉
名所旧跡…うつくしい風景ふうけい歴史れきしのこ事件じけん建造物けんぞうぶつがあったところ。
映え…ばえのさをあらわ俗語ぞくご
詰めかける…大勢おおぜいの人が一カ所いっしゃしょせる。
臨海部…うみめんする地域ちいき
目をつける…とく注意ちゅういして見る。
加盟…団体だんたい組織そしきくわわること。
現行…現在行げんざいおこなっていること。
埠頭…港湾こうわんで、ふねよこづけにしてきゃく昇降しょうこう貨物かもつろしをする区域くいき
様…もの姿すがたかたちや状態じょうたい事物じぶつのありかた動作どうさのし方など。
 



1 愛知県東海市がクルーズをもよお目的もくてきはなんですか。
2 愛知県飛島村が「日本一リッチな村」と言われるのはなぜですか。
3 工場夜景の魅力みりょくを、写真家の青木さんはどうべて言いますか。
 ①石油精製コンビナート…
    ②パイプが張り巡らされた化学工場…
    ③製鉄所…
4 また、青木さんは工場夜景の魅力を3字で表しています。それはなんです
   か。
 


 
*もう一度読んでみよう。

 名所旧跡でもない。無機質な機械群が、夜には観光地に化ける。それが「工場夜景」だ。十数年前に四つの工業都市で注目されるようになり、「映え」を狙って今なお多くの愛好家が詰めかける。最近では、人気に目をつけ、工場夜景を売りにクルーズを企画する自治体も相次ぐ。何が「萌(も)え」させるのか。
 「想定以上の人気。今年もすぐに予約が埋まるのでは」。7月8日からの「夜景遊覧クルーズ」の募集を前に、愛知県東海市商工労政課の担当者は声を弾ませる。
 知多半島の付け根に位置する東海市。臨海部には日本製鉄や大同特殊鋼、愛知製鋼などの工場が並ぶ。夜、市街地から眺めても一部しか見えない。だが、夜の遊覧船に乗れば1時間10分、ナイトクルーズで工場群の夜景を楽しめる。
 昨年は8~10月に計4日8便で定員計320人で催行。工場の景観を愛好する「工場萌え」のファンで、募集初日の午前中に予約は埋まった。そのため今年は8~11月に計10日20便、定員計850人(料金5900~6600円)と倍以上に増やした。
目立った名所がない市内へ観光客を増やし、市の知名度アップにつなげたい。目をつけたのが地元の夜景だった。工場夜景を売りにする都市の集まり「全国工場夜景都市協議会」=表=には2020年度に加盟した。クルーズは19年から始めた。船上でワインを振る舞ったり、和楽器を演奏したりと様々な試みをした上で、工場見学も選べる現行の方式に落ち着いた。
 参加者へのアンケートから、集合場所の名鉄太田川駅周辺で宿泊し、食事をするなど経済効果につながっていることも確認できた。市の担当者は「いずれは商業ベースに乗せ、クルーズの回数をもっと増やせるようにしたい」。
工場群はかつて公害の象徴でもあった。その夜景を観光にいかす取り組みが、川崎市などで本格的に始まったのは15年ほど前。同市が呼びかけて北海道室蘭市、三重県四日市市、北九州市による「全国工場夜景サミット」を2011年に初開催。
 その後、全国工場夜景都市協議会もできた。現在は10道府県の13市村が、船やバス、電車で巡る旅行を開催している。
 昨年4月に、協議会に新たに加盟したのが「日本一リッチな村」とも言われる愛知県飛島村だ。
 「灰色のイメージしかなかった場所が夜にはあんなに魅力的な場所になるなんて以前は知りませんでした」。そう語るのは、飛島村役場職員の伊藤友恵さん。昨年あった飛島沖を巡る遊覧船クルーズでアナウンス役を務めた。
 クルーズは昨年9月~今年3月に計8日あり、県内外の631人が参加。今シーズンは秋に予定している。
名古屋市の隣にあり、国内最大級のコンテナターミナルを抱える村。村内に埠頭(ふとう)がある名古屋港は、取り扱う貨物総量が全国1位だ。コンテナを積むガントリークレーンが立ち並ぶ様は、夕暮れ時の逆光でキリンに見える。「日本で一番キリンが並ぶ村」と称される。
工場夜景が、今なお支持されるのはなぜか。
「それぞれに違った魅力、特徴がある」。こう語るのは、毎年、工場夜景のカレンダー「THE FACTORY STYLE」を制作している写真家青木秀道さん(60)=神奈川県鎌倉市=だ。
 石油精製コンビナートには「ダイナミックなタワー」、パイプが張り巡らされた化学工場には「幾何学的な機械美」、製鉄所には「昭和初期にタイムスリップしたかのような錯覚を覚える」という。
 「昼間は見逃してしまう『日常の姿』が夜になると変貌(へんぼう)し、光を放つホタルのような生き物になる。そんな非日常が心を揺さぶる」


 
〈こたえ〉
1目立った名所がない観光客を増やし、市の知名度アップにつなげること。
2村が国内最大級のコンテナターミナルを抱えており、村内に埠頭がある名古屋港は、取り扱う貨物総量が全国1位だから。
3①「ダイナミックなタワー」   ②「幾何学的な機械美」
③「昭和初期にタイムスリップしたかのような錯覚を覚える」
4非日常




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