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「女性だから」殺されるフェミサイド 初の女性大統領は光になれるか

3日未明みっかみめい。メキシコ大統領選だいとうりょうせん初当選はつとうせんたしたクラウディア・シェインバウムぜんメキシコ市長しちょう(61)は、首都しゅとメキシコ市でひらいた演説えんぜつで、巨大きょだいなメキシコ国旗こっき背景はいけいにこう宣言せんげんした。
 「わたしは、メキシコ史上初しじょうはつ女性大統領じょせいだいとうりょうになる」
     (中略)
 メキシコは1821ねん独立どくりつたすまでの300年間ねんかん旧宗主国きゅうそうしゅこくスペインに支配しはいされた。地元じもとメディアなどによると、当初とうしょ入植者にゅうしょくしゃはほとんどが男性だんせいで、先住民せんじゅうみん女性じょせい性的暴行せいてきぼうこうくわえる事例じれい相次あいついだ。また、カトリックてき価値観かちかんはいむなどした結果けっか、「女性じょせい家庭かていにいるべきだ」とする保守的ほしゅてきかんがえ方に拍車はくしゃがかかったという。
 マチスモ(男性優位主義だんせいゆういしゅぎ)は中南米社会ちゅうなんべいしょこく根強ねづよいが、従来じゅうらい暴力事件ぼうりょくじけんおおいメキシコではとくにその傾向けいこうつよいとみられている。女性支援団体じょせいしえんだんたいのフリア・ディドリクソンさん(29)はこうはなす。「女性じょせい身体からだ男性だんせい所有物しょゆうぶつだとしんじる男性が、フェミサイド(女性であることを理由りゆうにした殺人さつじん)をする。ころしまでしなくても、暴力ぼうりょくるうケースもとても多い」
 メキシコの刑法けいほうには「フェミサイドざい」の条項じょうこうがあり、その定義ていぎを「性別せいべつ理由りゆう女性じょせい生命せいめいうば行為こうい」と明記めいき被害者ひがいしゃ性的暴力せいてきぼうりょくけた形跡けいせきがあった▽被害者に脅迫きょうはくいやがらせなどがあった▽被害者の遺体いたい公共こうきょう放置ほうちされていた、などであればフェミサイドだとしている。刑期けいきしゅうごとにことなるが、通常つうじょう殺人罪さつじんざい最低さいてい懲役ちょうえき12年なのにたいし、フェミサイドざい最低刑期さいていけいきは懲役20年だ。
 2023年、メキシコで女性じょせい被害者ひがいしゃとなる殺人事件さつじんじけんやく3500けんあった。1日に10人の女性じょせい犠牲ぎせいになる計算けいさんだ。容疑者ようぎしゃ供述きょうじゅつや遺体の状況じょうきょうなどから、約3わり事件じけんがフェミサイド罪の適用てきようけている。
 地元じもとメディアなどによると、フェミサイドの件数けんすうは22年はやく960けんで、約410件だった15年の2・3ばいだった。銃器じゅうき使つかった無差別むさべつ殺人さつじんえているという。だが人権団体じんけんだんたいは、フェミサイドによる実際じさい被害者数ひがいしゃすうは、はるかにおおいとている。
 被害者ひがいしゃ老若様々ろうにゃくさまざまで、昨年さくねんには通学中つうがくちゅうだった少女しょうじょ(14)が誘拐ゆうかいされて半年後はんとし遺体いたいつかったケースもあった。ディドリクソンさんは「殺人だけでなく性暴力せいぼうりょく傷害事件しょうがいじけんふくめれば、なんらかの被害ひがいっている女性じょせいはとてもおおいだろう」と指摘してきする。報復ほうふくおそれて被害女性ひがいじょせい家族かぞくが被害を申告しんこくできず、また捜査そうさすすまずに容疑者ようぎしゃが処罰されない「不処罰率ふしょばつりつ」は、95%にもおよぶ。-
 だからこそ、メキシコはつ女性大統領じょせいだいとうりょうとなるシェインバウムへの期待きたいたかい。
 シェインバウム選挙戦せんきょせんで、フェミサイドを捜査そうさする専門せんもん部署ぶしょげると明言めいげん中央省庁ちゅうおうしょうちょうへの女性弁護士じょせいべんごし配置はいち義務化ぎむかや、女性じょせいのための避難所ひなんじょ開設かいせつなどもした。
 今年ことし3がつ国際女性こくさいじょせいデーでは「女性大統領が誕生たんじょうしたことが評価ひょうかされるのではなく、女性のために行動こうどうこす必要ひつようがある」と決意けついべていた。シェインバウム氏が18年から昨年さくねんまでトップをつとめたメキシコ市では、フェミサイドが3割減わりへったという統計とうけいもある。
 ディドリクソンさんは、シェインバウム氏の就任しゅうにん即座そくざにフェミサイドの根絶こんぜつやマチスモ文化ぶんか撤廃てっぱいにつながることはないとみる。「それでも女性大統領の誕生は、女性が社会しゃかい活躍かつやくしてもいという力強ちからづよいメッセージにはなる。女性への一人一人の意識いしきわり、確実かくじつ結果けっかむだろう」と期待きたいする。
 「女性が女性であることに恐怖きょうふいだかなくてよい社会になれば良い。一歩いっぽずつ、一歩ずつ」  (2024年6月3日 朝日新聞 メキシコ市=軽部理人)
 


〈ことば〉
未明…がた。まだ夜が明けきらないころ。
宣言…個人こじん団体だんたいなどが意見いけん意思いし方針ほうしんなどを外部がいぶ表明ひょうめいすること。
旧宗主国…以前いぜん宗主権そうしゅけんって相手国あいてこく従属じゅうぞくさせたくに
入植者…開拓地かいたくち植民地しょくみんちに入って生活せいかつする人。
拍車がかかる…うまはら拍車はくしゃ乗馬靴じょうばぐつのかかとにつける歯車状はぐるまじょう金具かなぐ)でけ
       って、馬をはやはしらせるから、ものごとが一気いっきすすむこ
       と。意味いみにもわるい意味にも使う。
根強い…感情かんじょう思想しそうなどが、人の心にしみついていて、長い間変わらないこ
    と。
傾向…性質せいしつ状態じょうたいがある方向ほうこうかたむいていること。
3割…30%
はるかに…程度ていどちがいがとても大きいこと。
指摘…それと示すこと。
報復…しかえし。
決意…心を決めること。
就任…ある任務にんむ職務しょくむにつくこと。
根絶…根本からすっかりなくすこと。
 


1メキシコで女性に対する暴力や殺人が多い背景はなんですか。2つあげな
 さい。
2フェミサイドによる被害について書いた次の文を読み、( )に適する言
 葉を入れなさい。
 ・2022年は( ① )件の被害が報告されており、15年前に比べて( 
  ② )倍である。しかし( ③ )を恐れて被害を申告できない人もい
  て、実際ははるかに多いと見られている。
 ・警察の捜査が進まずに容疑者が処罰されない「不処罰率」は、( 
  ④ )%にも及ぶ。
3女性であるシェインバウム氏が大統領になることで、期待されることはな
 んですか。2つあげなさい。
4「あう」の漢字の使い分けは次のとおりです。覚えましょう。
 ① 会 ⇒ 約束して人とあう。会見、面会、会談など。
    ② 逢 ⇒ 主として男女が約束してデートなどであう。
    ③ 遇う ⇒ 偶然であう。
    ④ 合う ⇒ 1つになる。合流、合体、合計など。
    ⑤ 遭う ⇒ 好ましくないことにであう。遭難、遭遇など。


 
*もう一度読んでみよう。

3日未明。メキシコ大統領選で初当選を果たしたクラウディア・シェインバウム前メキシコ市長(61)は、首都メキシコ市で開いた演説で、巨大なメキシコ国旗を背景にこう宣言した。
 「私は、メキシコ史上初の女性大統領になる」
     (中略)
 メキシコは1821年に独立を果たすまでの300年間、旧宗主国スペインに支配された。地元メディアなどによると、当初の入植者はほとんどが男性で、先住民の女性に性的暴行を加える事例が相次いだ。また、カトリック的な価値観が入り込むなどした結果、「女性は家庭にいるべきだ」とする保守的な考え方に拍車がかかったという。
 マチスモ(男性優位主義)は中南米社会で根強いが、従来、暴力事件が多いメキシコでは特にその傾向が強いとみられている。女性支援団体のフリア・ディドリクソンさん(29)はこう話す。「女性の身体は男性の所有物だと信じる男性が、フェミサイド(女性であることを理由にした殺人)をする。殺しまでしなくても、暴力を振るうケースもとても多い」
 メキシコの刑法には「フェミサイド罪」の条項があり、その定義を「性別を理由に女性の生命を奪う行為」と明記。被害者が性的暴力を受けた形跡があった▽被害者に脅迫や嫌がらせなどがあった▽被害者の遺体が公共の場に放置されていた、などであればフェミサイドだとしている。刑期は州ごとに異なるが、通常の殺人罪が最低で懲役12年なのに対し、フェミサイド罪の最低刑期は懲役20年だ。
 2023年、メキシコで女性が被害者となる殺人事件は約3500件あった。1日に10人の女性が犠牲になる計算だ。容疑者の供述や遺体の状況などから、約3割の事件がフェミサイド罪の適用を受けている。
 地元メディアなどによると、フェミサイドの件数は22年は約960件で、約410件だった15年の2・3倍だった。銃器を使った無差別な殺人が増えているという。だが人権団体は、フェミサイドによる実際の被害者数は、はるかに多いと見ている。
 被害者は老若様々で、昨年には通学中だった少女(14)が誘拐されて半年後に遺体で見つかったケースもあった。ディドリクソンさんは「殺人だけでなく性暴力や傷害事件を含めれば、何らかの被害に遭っている女性はとても多いだろう」と指摘する。報復を恐れて被害女性や家族が被害を申告できず、また捜査が進まずに容疑者が処罰されない「不処罰率」は、95%にも及ぶ。-
 だからこそ、メキシコ初の女性大統領となるシェインバウム氏への期待は高い。
 シェインバウム氏は選挙戦で、フェミサイドを捜査する専門の部署を立ち上げると明言。中央省庁への女性弁護士の配置の義務化や、女性のための避難所の開設なども打ち出した。
 今年3月の国際女性デーでは「女性大統領が誕生したことが評価されるのではなく、女性のために行動を起こす必要がある」と決意を述べていた。シェインバウム氏が18年から昨年までトップを務めたメキシコ市では、フェミサイドが3割減ったという統計もある。
 ディドリクソンさんは、シェインバウム氏の就任が即座にフェミサイドの根絶やマチスモ文化の撤廃につながることはないとみる。「それでも女性大統領の誕生は、女性が社会に出て活躍しても良いという力強いメッセージにはなる。女性への一人一人の意識が変わり、確実に良い結果を生むだろう」と期待する。
 「女性が女性であることに恐怖を抱かなくてよい社会になれば良い。一歩ずつ、一歩ずつ」   

 


〈こたえ〉
1①メキシコが独立するまでの300年間、入植者はほとんどが男性で、先住
  民の女性に性的暴行を加える事例が相次いだこと。
②カトリック的な価値観が入り込んで「女性は家庭にいるべきだ」とする保
 守的な 考え方に拍車がかかったこと。
2①960   ②2.3   ③報復   ④95
3①フェミサイドを減らすこと。
 ②女性の社会進出。



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