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特殊事情の解消による賃料増減額の可能性

1 賃貸借契約を締結した当時の当事者間の特殊な事情があったために、賃料が相場よりも著しく低額又は高額であった場合に、その後、この特殊な事情の変更が生じたときに、借地借家法32条1項に基づく、賃料増減額請求が認められるかどうかが問題となる。

2 そもそも、借地借家法32条1項は、「建物の借賃が・・・不相当となったときは・・・将来に向かって建物の借賃を増減を請求することができる」と規定しており、①「不相当性」とは、「当事者が賃料額決定の要素とした事情を含め、当事者間の具体的な事情を総合的に考慮して、従来の家賃を維持することが公平か否かという見地から判断される。」(コンメンタール借地借家法【第4版】269頁)とされている。また、②家賃が従前の賃料合意時からの事情の変化により不相当になったことを要するので、「賃料決定の時からそれが不相当であっても、それだけでは足りず、その後さらに不相当となったことを要する」(星野英一・借地借家法235頁)とされている。
  そのため、当初から賃料相場よりも高く又は低く設定されていたという事情だけをもって借地借家法32条1項に基づく賃料増減額請求を行うことはできず、契約締結当時の特殊な事情の変更を考慮することができるかどうかという問題となる。

3(1) この点、学説上は、「賃料は使用収益の対価として、平均利回の範囲で貸主が当然取得できるが、その範囲に止まるべきものであり、特殊事情のため賃料としてはそれが少なかったり、多かったりした場合に、その事情が消滅すれば、本来の額に戻るべきであろう。増減請求権を認めるべきものと考える。」(星野英一・借地借家法238頁)、「当事者間の情誼や人的関係等から当初の家賃が相場よりも低かったが、時の経過や世代交代によりそのような特殊事情が消滅した場合、あるいは、賃貸借契約当時、テナント側の経営事情に配慮して相場よりも家賃が低く設定されたが、その後軌道に乗ったような場合(大阪高判平20.4.30判タ1287-234)には、一般的な水準までの増額を認めるのが適当であろう・・・。ただし、一挙に高額な増額となるときは、増額の幅を考慮する等配慮すべきである」(コンメンタール借地借家法【第4版】268頁)などという見解が有力である。
 (2) 裁判例においても、①親子関係という特殊事情があったために低額に賃料が定められていた場合に、その特殊事情が本件建物の譲渡に伴う賃貸人の地位の移転により消滅した場合について、賃料の増額が認められた事例(東京高裁平成18年11月30日判決)、②建物の所有者が賃借人会社の代表取締役であり、賃貸人の収益性と比べ賃借人の経営状況を重視して定められていたという特殊事情があった事案について、その特殊事情を加味した上で、差額配分法を適用して適正賃料を求めた鑑定に基づき賃料の増額請求を認めた事例(東京地裁平成25年8月2日)など、特殊事情の消滅等による賃料の増減額を認めた裁判例はいくつも存在する。

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