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財産開示手続と罰則の強化

1 金銭債権についての強制執行の申立ては、原則、債務者の財産を特定して行う必要があるため、債務者の財産に関する十分な情報を有しない場合には、勝訴判決を得ても実効的な強制執行を行うことができない。そのため、平成15年の民事執行法の改正によって、財産開示手続(民事執行法196条以下)が創設された。

2 財産開示手続の流れは、①執行裁判所が財産開示期日を指定して開示義務者を呼び出すことになり、②開示義務者に事前に財産目録を提出させて(法規則183条3項)、③申立人と開示義務者が期日に出頭した上で、④開示義務者がその財産を陳述し、⑤執行裁判所が質問し(法199条3項)、又は申立人が執行裁判所の許可を得て質問する(同条4項)というものである。
  開示義務者は、財産開示期日時点での財産を陳述する義務(法199条1項、2項)を負っている。この義務の具体的な内容について、過去の財産については当然に開示の対象とならないと解されているが、過去の処分行為に関する質問(例えば、詐害的な財産処分行為)であれば、現在の財産状況と何らかの関連を有する質問形式であれば許されると解されるべきであるし、将来の財産についても強制執行が可能であると考えられる限り、開示の対象となると解されてよいはずである。
  したがって、この質問権などを上手く利用することによって、債務者に対して実効的な財産開示を行わせることが期待できるところである。

3 なお、財産開示手続においては、かつては、不出頭や虚偽陳述等による制裁として30万円以下の過料が定められていた(旧民事執行法206条1項)。そのため、違反した者については、申立人から執行裁判所に対して上申書を提出し、過料の制裁を行うように職権発動を促すことができる実務運用となっていた。
しかし、改正法では、不出頭や虚偽陳述等による制裁が、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑事罰に変更された(民事執行法213条1項6号)。
このような変更にあたって、法制審議会民事執行法部会第14回会議議事録(平成29年12月15日開催)では、「やはり公益違反というか、個人と法人は違うかと思いますけれども、法人において刑罰という形で対応された場合に、許認可を受けている業界等であれば相当影響があります。少なくとも、現時点でも貸金業等であれば、今の過料と違ってかなり影響がありますので、効果としては、仮に裁量になるとしても、将来リスクを考えると、不出頭等を含めて対応しないということは大分減るのではないかと思います」という発言が、阿多博文弁護士からされているところである。

4 なお、弊事務所では、財産開示手続に出頭しなかった者等について、「申立人は、開示義務者の不出頭や虚偽陳述等について毅然とした対応を取っていく必要がある。例えば、告発等によって検察官に対して刑罰権の発動を求めていく対応なども検討に値する。それによって、極めて高い実効性が確保できる手続となることが期待できる。」(弁護士山口明「改正民事執行法の金融実務に与える影響」(金融法務事情2135号・2020年))と述べたところである。
  そして、2021年に、財産開示期日の不出頭による民事執行法違反で、債権者の代理人弁護士が刑事告発を行ったという記事に接した(2021年4月27日付け弁護士ドットコムタイムズ)ところであるが、今後、このような実務運用が高まることは期待されるところである。
  なお、同記事によれば、告発をした弁護士の話として、「刑事告発について、『告発するケースが増え、不出頭は刑事罰の対象になるという認識が広まれば、出頭率も増えるのではないか』と期待する。また、一般の債権者が告発状を提出しようとしても、『前例が少ない』『証拠が足りない』などの理由で受理されにくい可能性を指摘し、『弁護士であれば、受理するよう警察を説得しやすいはず。弁護士は積極的に告発に関わって欲しい』」とされている。

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