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監査役の職務と責任

1 株式会社の監査役は、会社に対して、委任の本旨に従って善良なる管理者の注意をもってその職務を行う義務を負う(会社法330条、民法644条)。そして、監査役は、取締役の職務の執行を監査する(会社法381条1項)と規定されており、かつ、当該監査を行うために、監査役には、事業の報告を求め、又は業務及び財産の状況を調査することができるとされている(同条2項)。そのことから、監査役は、どのような場合に調査権限を行使して調査を行う義務があると解されるのかが問題となる。

2 この点、①大阪高裁平成26年2月27日判決は、「監査役は、取締役が違法な業務執行を行っていることに疑いを抱かせる事実を知った場合は、調査権限を行使して違法な業務執行行為の存否につき積極的に調査すべき義務があると解されるが、そのような事実、すなわち調査の端緒となるべき事実もないのに、違法な業務執行の存否について積極的に調査すべき義務があるものとは認めがたい。」と判示している。②「取締役が違法な業務執行を行っていることに疑いを抱かせる事情を知った場合には、調査権限を行使して違法な業務執行行為の存否につき積極的に調査すべき義務がある。仮に上記事情を知らなかったとしても、監査役の責任が肯定されるためには、少なくとも、調査の端緒となるべき上記事情が存在し、かつ、監査役がこれを知り得る場合であることが必要である」とした裁判例(東京地裁平成28年7月14日判決)や、③「監査役としての任務を懈怠したというためには・・・取締役が善管注意義務に違反する行為等をした、又は、するおそれがあるとの具体的な事情があり、相手方がその事情を認識し、又は、認識することができたと認められることを要すると解するのが相当である」とした裁判例(大阪地裁平成27年12月14日判決)がある。
  以上の裁判例などからすれば、裁判所としては、監査役が調査権限を行使して積極的に調査を行う義務を有するのは、(a)取締役が違法な業務執行や善管注意義務違反をしている事実があり、(b)その事実を認識し、又は認識することができた場合(すなわち、調査の端緒となるべき事情が存在する場合)という枠組みの中で判断しているものと考えられる。

3 では、どのような場合に、調査の端緒となるべき事情があったといえるのかが問題となるが、①最判平成21年11月27日判決は、代表理事Aの一連の言動に明らかな善管注意義務違反があったことをうかがわせるに十分だった事案において、監査役の調査・確認の義務があったとしている。②また、上記大阪高裁においては、(a)取締役会において議題として取り上げられた形跡がないこと、(b)営業活動が違法な形で行われ、取引先との間でトラブルが発生していることを監査役らが知り得たと認めるに足りる証拠も存しない事案において任務懈怠が認められなかった。③さらに、上記東京地裁平成28年判決においては、(a)虚偽の情報に接しない状況にあったこと、(b)社長が虚偽の情報であることを秘匿し続けたことから、(監査役が)虚偽の情報であったことを認識していると認めることはできず、(c)虚偽の資料の記載内容自体が、直ちに虚偽のものであると疑うべきであったとまではいえないこと等の事情から、監査役の任務懈怠は認められなかった。
  以上のことから、調査の端緒となるべき事象は、一般的・抽象的なものに止まる場合には該当しない場合が多く、具体的かつ明確なものであれば該当する場合が多いものと考えられるが、いずれにしても個別事情を踏まえた判断とならざるを得ない。

4 なお、内部統制システムが適切に構築されている会社においては、そのシステムを使った監査が認められるため、監査役自らが、個別取引の詳細まで精査することは求められていないと判断される傾向にある。

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