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「近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき」(借地借家法32条1項)の解釈

1 借地借家法32条1項は、建物の賃料の増減額請求ができる法定事由の一つとして、「近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき」を挙げている。また、賃貸借契約書においても、同様の内容が規定されている事例も多い。そのため、当該事由を根拠に、実務上、近隣の建物における最近の成約事例を挙げて、当該成約事例の賃料と比べて、対象となる建物の賃料が不相当であるとの主張がされることがある。

2 しかし、「比隣賃料との比較はいうに易いが、現実に適用することはその道の専門家(不動産鑑定士等)であっても極めて困難である」(新基本法コンメンタール 借地借家法【第2版】208頁)とされており、上記のような主張を安易に行うことは十分な留意が必要である。
  「賃料は、契約の始期、経過期間、賃貸借当事者間の関係、契約始期および改定時の建物賃貸借の需給関係、賃貸借の動機その他客観的・物的要素のほか主観的・人的要素も大きく影響する。したがって、比隣賃料をもって従前賃料の相当性を判断する場合は、これらの諸事情や地域的、個別的要因を比較した上、比準すべき相当額を導き出さなければならない。」「したがって、一般的には、比隣賃料は単にその地域における賃料水準を示すものとして参考とするにとどめ、それのみでは直ちに従前の賃料の不相当性判断の基準とはなり得ないと考えるのが適切であろう。」(同上208頁)という見解が有力に主張されているからである。
  
3 また実際にも、「近隣の建物の成約事例は、坪3万円であるから、本件建物についても、坪3万円まで増額が認められるべきである。」という主張が、賃料増額調停などにおいてされたとしても、このような主張がそのまま採用された案件は、当事務所の経験上、存在しない。
      もっとも、同一施設の他テナントの賃料については、「近傍同種の建物の賃料と比較する際には,各賃貸借契約の締結の際の事情やその後の経緯等についての相違を考慮すべきであるところ,同一の施設の一部の賃貸借契約については,別の施設や建物以上に類似性があると考えられる」(大阪高裁平成30年6月28日判決)として、賃貸状況に類似性があれば、これを「近傍同種の建物の借賃」として比較の対象に含まれるとした事例もある(とはいえ、この事例においても、同一施設の他テナントの賃料額まで増額が認められたわけではない。)。
      いずれにせよ、「近傍同種の建物の借賃との比較」にあたっては、比較対象となる事例の賃貸状況を具体的に検証していく必要がある。

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