日本の職人デザインを世界に(田村泰彦)

何かをデザインする時には、使いやすさ、安全、子供が好き、そばに置いておきたいといった地球上の人々すべてに共通した感情を、キーワードにしているという人もいます。デザインに優しさがあれば、地球上どこでも通用します。デザインに国境はいりません。

新しい国際的な文化は、不合理な要素や新しい要素をも雑多に含んだ、ローカルな仕事場でしか生まれないと思います。私共のチームが考える国際文化は、異なる地域性を織り込んだ不完全なものです。不完全だからこそ発展性があります。

■伝統的家屋と職人

日本の農村や、伝統的家屋など、すべて手作業で作っていたころは、きわめて質の高いものが、ごく大衆的に存在していました。100年単位で職人たちが作り上げてきたものです。

1970年代ごろからの住宅は、戦後復興のために一刻も早く造らなければならないという状況から生まれました。そして、たんすに服をぶら下げるなど、これまであった伝統生活の決まりやおきてが崩壊していったと考えられます。

国際文化はもともと単純な要素でできていました。しかし、私たちは複雑なもの、詩的で象徴的なものを探しているように思います。曼荼羅(まんだら)風に家を設計したとしましょう。これは現実的な企画というより思想的な作品だと言えるでしょう。一方、原型に近い構造から発展し、彫刻のような作品がで切ることもあります。この過程がすなわち「デザインする」ということです。アートの手法を用いて人間とデザインとの関係を模索していています。

例えば、タイには西洋的な建築やポストモダン的なものもあるりますが、その底流には日本を含めバリ島に至る、たいへん古い西太平洋文化があります。それは今後次第に大きくなっていくのではないでしょうか。

■ローカルアイデンティティー

アジアからヨーロッパを見ると、音楽も言語も、文化的にひとつのように見えてしまいます。それにひきかえ、アジア・太平洋地域にはそれぞれに固有な文化、歴史の文脈があります。日本の文化は西洋に侵食されているという心配もあるかもしれませんが、日本人的な特質は脈々と受け継がれていると思います。

バンコクでは建築スタイルが混とんとして、「アーキテクチャー・アイデンティティー・ディザースター・シンドローム」(建築のアイデンティティー崩壊症候群)という問題もあります。その中で、ローカルアイデンティティーを観光などの売り物にしようという動きもでています。

■工場がオートマ化しても、仕上げは手作業

日本の文化には、柔道のように相手の力を利用して相手を倒すテクニックもあります。日本の都市は未来的です。日本は手作りの文化を重視しています。工場がオートマ化しても、仕上げは手作業です。このやり方は魅力的な未来像につながると思います。

また、日本人はグランドビジョンに期待を持ち、それでヨーロッパの都市にあこがれてきた面もあります。しかしその都市は貧しい人たちや職人の住んでいる所を破壊して造られました。

日本には破壊することなく、逆に小さな部分の一つひとつを大事にした華麗で優雅なデザインがあります。「隣の芝生は青い」とも言われますが、西欧の人たちにとってはうらやましい点も多いようです。

田村泰彦