令和6年7月豪雨について棚卸し(3)

(1)今回の教訓をまとめる

冒頭からクライマックスのような見出しですが、前2つの記事をざっくりと振り返ります。なお、繰り返しになりますが、一連の記事は私一個人の見解であり、所属する組織や気象庁・気象台の見解ではないことをお断りしておきます。

・【天候の予測→◯】台風が台湾付近をゆっくりと北西進する一方で、夏の太平洋高気圧が勢力を強め、熱帯由来の暖湿気が同じような所に流れ込み続ける。このため、東北を中心に北海道から北陸にかけての日本海側では、7月23日頃から月末にかけて大雨が続く可能性があることは、比較的精度良く予測できていました。

・【大雨の降り始めの予測→△】前々日の時点では難しかったのですが、前日の資料を確認していれば予測できた可能性があっただけに、しっかり見ていなかった事が悔やまれます。仕事もこなしながら毎日毎日終わりの見えない大雨の、それもピンポイント予測を続けることの難しさと一馬力の限界を感じました。天気予報はチームで挑む必要がありますね。

・【特別警報級の予測→◯】後出しジャンケンと言われればそれまででしょうが、13時に1回目の特別警報が発表される3時間以上前、キキクルで黒メッシュが現れた時点で、明朝まで雨が続くことを踏まえれば特別警報の発表を確信する事が出来ました。特別警報が出てから対策本部を立ち上げているのでは手遅れです。

・【降り終わりの予測→×】今回いちばん予測が難しいと痛感したのは、実は降り始めではなく降り終わりでした。同じような気圧配置が続く中でも変化はあります。しかし予測は常に揺らぎます。ましてや25日は予報を大外ししています。断言することは難しくとも、それでもしっかりと予報を出すのが気象予測の責務だと自分に言い聞かせたいです。

(2)あの日の振り返りに

①防災気象情報のアーカイブを活用しよう

過去の主な災害時の情報発表状況(気象庁ウェブサイト)

9月3日(火)に気象庁から今回の大雨の際の気象庁HPを再現したサイト(アーカイブ)が公開されています。当日の気象警報の発表状況や雨雲レーダー、キキクルなどの状況を1時間ピッチで追うことで、あの日を追体験する事が出来る便利なものです。2年前から気象庁が本格的に始めた取り組みで、前回、2022年8月・置賜地方に特別警報が発表された事例も同様に公開されています。

ちなみにこのアーカイブを活用する際のコツですが、まず、スマホではなくパソコンから閲覧しましょう。次に身の回りや地域で起こったこと、そしてどう考えどう行動したのかを、ざっくりで構いませんので、あらかじめ時系列で整理しておき、そのうえでアーカイブと比較します。
あなたの身の回りで起こったことは、あなた自身が一番よくわかっています。振り返るうえで気になったことは、防災気象情報に限らず調べておきましょう。

そもそも防災気象情報は、現地の状況も網羅して、すべてを指図してくれる訳ではないこと、ましてや生命や財産の保証をしてくれるものではないのです。

②予想天気図を保存しておこう

防災気象情報のアーカイブと合わせて、各気象台がまとめた災害時気象資料のリンク集も公開されています。都道府県や市町村、地域を管轄する河川国道事務所などからも、災害への対応状況を整理したものが公開されていますので、気になったことは調べておきたいものです。私も今回被災した自治体の広報誌に目を通そうと思います。今は大抵のものはネットで閲覧できるので便利ですね。
そして個人的にあわせて保存しておきたいものがあります。

それは予想天気図です。
大抵の報告書や記事は「あの日の状況はこうでした」で始まります。組織として確かにそれはそうなのですが、個人として大事なのは過去から当日、そして現在までの時系列でないでしょうか。当日の天気図を脳裏に焼き付けるのも良いのですが、残念ながらそれは結果論です。
そもそも地震と違ってある程度の予測が可能なのが気象の世界です。日々刻々と変わる予想からいかに災害の危険を察知するのか。前日、前々日のものだけで構いませんので、予想天気図を手元に置き振り返りに活用されることをお勧めします。

Sunny Spot 天気・気象情報サイト!
(入手方法)上記のリンクをクリック(タップ)すると専門天気図のアーカイブサイトが開きます。①まず天気図の年と月を指定しますので、2024年と7月を選択します。②天気図の種類は「FSAS24 予想天気図24時間」を選択。③検索するをクリック(タップ)。④天気図の一覧が表示されたら、希望する24時間予想天気図をPDFでダウンロードします。⑤同様に48時間予想天気図をダウンロードする場合は、②で「FSAS48 予想天気図」を選択のうえ③④を繰り返してください。
(注意)不意にリンクが切れたり公開が終了したりする可能性もあるので、2024年内にダウンロードにすることをお勧めします。

(3)最悪を想定する〜もし7/25以降も降り続いていたら〜

①大雨と暑さはもっと厳しくなる

山形県では平成30年8月に始まり、1年おきに大雨災害に見舞われる状況がここ数年続いています。たまたま偶然なのかも知れませんが、やはり気候変動(温暖化)の影響も排除できません。
残念ながらこの先も気候変動は加速し、特に大雨や暑さはもっと厳しくなります。少なくともこの数年、大雨による影響が厳しい、重いと感じた地域は、この先もっと荷重が増すことだけは確かではないかと思います。
私も他人事ではありません。

余談ですが、昨年今年と日本列島を襲っている夏場の暑さは、研究者や専門家の予測を大きく超え数十年先を先取りするものだそうですが、一説には太陽活動が活発期を迎えていることなどが影響していると言われています。とはいえ一般市民に出来ることは、暑さへの対処と早急な気候変動対策を訴えること、それと研究の成果を待つしかなさそうです。

②最悪を想定してみる

気候変動は今後も加速を続けるとして、行政そして住民個人としてもぜひ最悪を想定して頂きたいと思います。7月25日(木)の大雨が週明けまで降りつづづいたらと考えてみましょう。私の棚卸しの記事(1)(2)を読まれた方はおわかりだと思いますが、もともとそんな予測だったのです。

庄内北部や最上、秋田県南部は7月25日までの大雨で相当な痛手を負いました。しかし、まだ降り続きます。それも警報基準を大幅に超える雨量です。何とか持ち堪えていた堤防や斜面が続々と崩れていきます。今回、殆ど被災しなかった村山や置賜も例外ではありません。県内半数以上の自治体に大雨特別警報が発表されます。最上以南の最上川も水位が既往最大を大きく超え各地で氾濫します。救援部隊は庄内北部や最上に集中していたため、村山や置賜の被災地には手が回りません。他県から増員しようにも峠道がことごとく塞がっています。

荒唐無稽のように思えますが、2019年の東日本台風や2018年の西日本豪雨(7月豪雨)、もう少し遡ると2011年7月の新潟・福島豪雨、同年9月の紀伊半島豪雨のように、広域かつ甚大な大雨災害もありえないとは言い切れません。
今回、眼前の対応に追われ1日で疲弊してしまった行政や住民の方も少なくないのではと思います。
まだ復旧もままならない地域も多いと思いますが、どうすれば被災も疲弊も抑えられたのか、将来に向けて考える必要があります。