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人と人とのつながりは言葉で定義できない

最近、見た映画がとてもよかったので、書き留めておきたいと思います。

月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さんはある日、同僚・山添君のとある小さな行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。だが、転職してきたばかりだというのに、やる気が無さそうに見えていた山添君もまたパニック障害を抱えていて、様々なことをあきらめ、生きがいも気力も失っていたのだった。職場の人たちの理解に支えられながら、友達でも恋人でもないけれど、どこか同士のような特別な気持ちが芽生えていく二人。いつしか、自分の症状は改善されなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになる。

「夜明けのすべて」パンフレットより

2人の主人公、山添くんと藤沢さん。最初は「苦手だな」と感じていた間柄が、どんどん変化していくのが、映画のいちばんのキーポイント。というか、それ以上のことは何も起きない。ドラマチックなことは起きないし、病気が治るわけでもない。山添くんと藤沢さんの変化と、それを取り巻く会社の人たちの日常を描いています。

大げさな音楽も、激しいカメラワークもない、本当に静かな日常。でも映画が終わったあとは、多幸感に包まれて劇場を後にできます。

で、この映画を人に進めるとしたら、山添くんと藤沢さんをなんていう言葉で説明したらいいだろう?と悩むわけです。映画の番宣を見ていると「特別な関係」と言っているんだけど、あまりしっくりこない。

確かに特別なんだけど、お互いに特別だと依存していないんですね。たまたま、人生のある期間、横に座っただけの「同僚」。でも、普通の人がイメージする「同僚」とはちょっと違うわけです。

山添くんと栗田科学の社長さんや、前職の上司も「上司」という説明だけではつかないような、本当に暖かい関係なんですよね。

こんなことを思いめぐらせていると、そもそも人の関係って、言葉で簡単に説明できることの方が難しいな、なんてことに気づきます。


私も、長らく注文住宅の設計という仕事をしてきましたが、お客様と設計士というのは、本当に不思議な関係だと思います。

長い人生のうちの数か月間、ものすごく密にお付き合いをします。生活の細かなことから、経済状況まで、仲の良い友達でも知りえないところまで、割と踏み込んでお話することも少なくありません。

「お客様」ではあるんだけど、たまたま通りがかった人に家を買ってもらったわけではないので、なんだかしっくりこないな~なんて思うのです。

こうやって、「言葉では説明できない関係」に包まれて、私たちの生活は成り立っているんだな。

願わくば、映画の中の「栗田科学」みたいな会社が増えて、生きづらさを抱えながらも、折り合いをつけて前を向ける人が増えるといいですね。

SNSや日々の生活の中で、人の悪意に触れすぎて心が疲弊している人。ぜひ、この映画の世界に触れてみてほしいなと思います。

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