寂しい?それとも退屈?

「その知、永遠なり」と言われるシャーロック・ホームズに恋人がいなかったのは彼が愛を知らなかったからではない。恋愛以上に事件解決を優先したわけでもない。行動の人ホームズを出し抜いた唯一の女性エレーナ・アドラー。ホームズ曰く「男が命懸けになるほど美しい人」だったらしい。事件がないとコカインで退屈を紛らわし、ワトソンと家政婦のハドソン婦人がいないと何もできない無能な男にとって、エレーナの存在自体が事件だったのかもしれない。ホームズの敵は事件じゃなく、退屈さ。彼は退屈しない女を愛しただけ。

あのエキセントリックな性格のエルキュール・ポワロにだって愛する女性はいた。でもその女はロシアの盗賊でポワロの灰色の脳細胞を揺るがせ、悩ませる存在だった。追う側と追われる側、ポワロは言った、「同じ国ではやめましょう」。別の事件ではかつて懇意だった(らしい)伯爵夫人に「私を愛しているなら逃がしてちょうだい」と懇願され、彼は答える、「我が名はポワロ」。いつの時代も追う側と追われる側の愛はタブーなのだ。

こうして名探偵の隠れた愛を思い出してみると、世界で語り継がれる知性を持った男性というのは、恋愛を犠牲にしていたわけではなく、事件と同等の存在が稀にしか存在しなかっただけなのだと思えてくる。追われる側はいつもジェイソン・ボーンみたいに動き回って逃げてるわけじゃない。名探偵がプライドにかけて追う相手は案外と静かだ。

普通ではない異邦人同士は普通でない故に惹かれ合ってしまうものなのか。

でもホームズもポワロも完全に孤独だったわけではない。ホームズには偉大な平凡人であるワトソンがいたし、ポワロには天真爛漫で活動的なヘイステイングスがいた。どう見てもデコボココンビのパートナー。そんな彼らが少し羨ましくなる。



テレビでは映画「タワーリング・インフェルノ」があってるのに、それをボーっと20分以上見つめたまま、原作すら読んだことのない二人の名探偵の隠れた愛に思い巡らしていた午後だった。


#日記 #シャーロック・ホームズ #エルキュール・ポワロ



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?