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浦島チンパン(外伝)

 高度経済成長期の真っ只中、金の卵と呼ばれた生体年齢20歳あたりのホモ・サピエンスが東京大移動をしておりました。集団で電車に乗り、山を越え、谷を越え、途中ちょっとしたハプニングにも耐えながら移動しておりました。一方、山林、海沿いに住んでいる若者ホモ・サピエンスもおりました。あるホモ・サピエンスは第二次産業に従事し○○に師事したり、あるホモ・サピエンスは第一次産業で精を出しておりました。

 彼は波打ち際を歩いておりました。直立二足歩行の時間を伸ばすためにトレーニングを積んでいたのです。「どうしても、1分をこえられないな」
彼の足腰は強い方です。複雑に入り組んだ樹上では手足を巧みに操り、その速度といえば森林ではティラノサウルスの追手を巻けるくらいです。
 約700万年前にヒトと枝分かれをして、早700万年。その英断は正しかったのか、正しくなかったのか、彼は横を通り過ぎるホモ・サピエンスを眺めながら考えておりました。この高度経済成長では直立二足歩行が大前提です。あらゆるシステムは直立二足歩行生命体に合わせて作られています。
「練習を積めば私もいつかは…」
砂浜の夕日を背景に頑張っています。
 
 「てめー、この野郎」
何やら3体のパン・トゥログロダイツ(チンパンジーの学名)が一点を集中して小突いています。彼はその中を覗きました。どうやら亀が攻撃を喰らっています。パン・トゥログロダイツはなかなかの攻撃性を持っています。ただ単に攻撃をする、もしくはグループにとって災いをもたらすと判断して攻撃をする。彼にはこの判断はできませんが、複数で単数を攻撃するのは良くないと思い、その輪に入っていきました。
「これこれ、亀が可哀想ではないですか」
彼は同種というのもあり、躊躇いなく声をかけました。
「何を部外者が」
「てめぇーは俺らの状況がどういうのかわかって入ってきてるのか」
2体の体の大きいパン・トゥログロダイツが彼に問いました。残りの1体は沈黙をしています。
「いえいえ、前にどういうことがあったのかは知りませんが、現状は亀にとって悲惨です。このことからお声をかけさせていただきました」
亀を攻撃していたパン・トゥログロダイツは、はーっとため息をついて、彼を睨みつけて、そして立ち去りました。

 「亀さん、大丈夫ですか」
亀はずっと甲羅の中に閉じ籠っていましたが、優しい声を聞いて頭を出しました。
「助かりました。実は、落ちていたバナナを食べてしまいまして。そしたらそのバナナはさっきのパン・トゥログロダイツのものだったのです」
なるほど、と頭を縦に振り、今後は気をつけるようにと促してその場を立ち去りました。

 三種の神器が熱を博しております。白黒テレビ、電気冷蔵庫、洗濯機。 彼は三種の神器を鏡( 八咫鏡 やたのかがみ )・剣( 草薙剣 くさなぎのつるぎ )・玉( 八坂瓊曲玉 やさかにのまがたま )だとばかり思っていたので、その違いを理解して驚きました。
 彼は中流階級の証でもある団地に住んでいました。夜になるとベランダに出て、バナナジュースを1杯引っ掛けるのが楽しみとなっており、砂浜でのトレーニングにも精が出るというものです。
 ピンポーン。誰か来たようです。踏み台に登り、覗き穴から覗きました。そこには亀がおりました。
 「先日はどうもありがとうございました。この間のお礼がしたく参りました」
 彼は一旦はお断りをしましたが、亀がどうしてもと言うので重い腰を上げました。亀が言うには、おもてなしをしたいとのことです。団地の下に停めてある大型バスで目的地に向かうようです。
 一般道やら高速道路やらを走らせどれくらいが経ったのでしょうか。ドリームスリーパー並みの心地よさがありましたので、ついつい眠りについてしまいました。
 「着きましたよ」
亀が彼の肩によじ登り頬を頭で突いています。 
 「着きましたか。ここは一体どこなのですか」
亀はただ単に微笑み、付いてきてくださいと合図をして先にバスから降りました。彼はバスの運転手に挨拶をして亀に付いて行きました。
 外に出ると目の前には大変美しい海が広がっていました。そして、目の前には大層立派なお城がございます。こちらのお城は白鷺城を模倣としている感じです。夜のライトアップはかなり映えそうです。
 「こちらでございます」
彼は亀の後を付いて行きました。マノスポンディルス門という門には門兵が目を光らせています。亀は門兵にIDカードを示しています。
 「確認いたしました。どうぞお通りください」
 彼は門兵に会釈をして、門を通過しました。
門を通過した目の前の光景は壮大でした。そこには法隆寺、鹿苑寺、慈照寺、法勝寺、興福寺などがあります。彼はまじまじとあたりの寺を見て亀に言いました。
「これらは本物ですか」
亀は言います。
「左様です。お釈迦さまの仏像がいくつか作られているのと同じく、実はお寺も複数作られているのです。そのうちの1つがこちらにあるということです」 
 彼にとって心躍るものばかりが目に入ってきます。
 
 門から朝堂院への道はいわゆるシルクロードならぬテンプルロードでした。また、門が見えてきました。亀は朝堂院の南門で彼に再度お礼を言って、しばしお待ちくださいと伝えて、彼を1人にしました。どうやら大極殿へ入る手続きをしに行くようです。
 彼は律儀に門の前で待っています。こちらの門番には筋肉隆々な男性が2人立っていて、彼を見ています。名札をつけているようですので見てみました。金剛力士(阿形)、金剛力士(吽形)という名前らしいです。身長はどのくらいでしょうか。彼がだいたい100cmですので、その8倍はありそうです。彼らは足が大きくサイズの合う靴がないため裸足です。冬はどうしているのか気になりましたので彼は彼らに声をかけました。
「ご苦労様です。冬場の寒さ対策はどのようにしているのですか」
阿形が答えます。
「心頭滅却すれば火もまた涼し。つまり、その逆も然り」
なるほどと思い、彼は頷きました。
 金剛力士との会話をしていると、亀が戻ってきました。
 「では、行きましょう。貴方をお待ちの方がおります」

 彼はきっと亀のご両親が待っているだろうと想像していました。我が子を助けてくれてありがとう。これは少しばかりの気持ちです。
 彼はこのように経緯が進むのかなと脂質が60%、たんぱく質が40%の臓器(脳)の中でシミュレーションをしました。

 「こちらになります」
帝釈天と阿修羅が彫られている大きな扉を開きました。そして、そこにはオランウータンが座っていました。
 「よく来てくださった。うちの亀が世話になりましたな」
 亀も会釈をしています。
「今日は貴方をもてなしたいと思って宴会の席をご用意しました。存分に楽しんで下さい」
 彼の予想は外れましたが、目の前には同じ類人猿のオランウータンでしたので、いささか親近感が湧いています。
「ご立派な席をありがとうございます」

 どれほど時間が経ったのでしょうか。彼はメチルアルコールやメタンフェタミン、テトラヒドロカンナビノール、イソキノリンアルカロイドなど、聞き慣れない成分の入ったお食事をもぐもぐ食べました。
 メスのパン・トゥログロダイツもお話し相手になってくれて大変充実した時間です。
 
 「宴もたけなわですが、ここであなた様にお持ち帰っていただきたいプレゼントがございます」
 彼は2回はお断りをしましたが、オランウータンがどうしてもと言うので、プレゼントをいただくことにしました。

 彼は門から出ました。
亀は助けてくれた感謝の言葉を述べ彼に気をつけて帰るように伝えました。彼も亀に感謝を述べて、今日の出来事はこの上なく楽しく、充実した時間を過ごしましたと伝え帰路につきました。
 
 団地に帰った彼はオランウータンからいただいた蒔絵の施された箱を開けようとしました。しかし、紐が固く縛られておりなかなか開けることが出来ません。お友達のダイオウサソリにお願いをして紐を切ってもらいました。そして、綺麗に装飾された箱を開けました。
 もくもくもくもく。箱から何やら出てきました。
「何だこれは。炭疽菌か」
彼はパニックになり慌ててベランダに出ました。
「ゲホゲホ」
彼はしばらくベランダにいて煙がなくなるのを見届けました。
「やれやれ。あの煙は一体何だったのかな」
彼はオランウータンのイタズラだと思い、やれやれと部屋の中に入っていきました。
 
 部屋の中に戻ると青色の筋肉隆々な魔人がおりました。
 「チンパン君。きび団子をあげるから鬼ヶ島に棲みついているブルーノを倒しに付いて来てくれないか」

めでたしめでたし。

 


バナナを購入したいと思います。メロンも食べてみたいです。