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こどもガチャ①

あらすじ

それはある日、通知が届く。
『アプリのインストールが完了しました』

アプリ画面は至って平凡なソシャゲの様なイラスト。
アプリ名は

『こどもガチャ』

簡単な登録で、本当にこどもが手に入るガチャが引けます。

貴方は、引く?引かない?

引かれた子は、幸せ?それとも…。




ver.1  拓斗★★

健「ただいま」

広い部屋へ響き渡る疲れきった声。
その一言だけで、返事はなし。

健(今日も1人か…)

俺の名前は田頭 健(たがしら けん)今年46になる。

会社での信頼も厚く、収入も人並み以上。
傍から見れば順風満帆な人生だろう。

しかし、家へ帰るとほとんど1人の毎日。

去年、妻に先立たれ、元々不仲であった1人娘もバイトで帰宅は深夜になりほとんど顔を合わせない。

今までは感じなかった感情。


寂しい……。

歳のせいか?と自分に言い聞かせながら、今日も晩酌のビールを飲む。

テレビを着けると流れていたのは、幸せそうな一家のホームドラマ。

健(家族…か。俺もこの主人公の様に、もっと2人と向き合っていれば何か変わっていたのか…)

ふいに押し寄せる後悔の念。
それを振り払うかのように、持っていたビールを一気に飲み干した。

その時だった。

テーブルの端に置いていたスマートフォンが光った。
通知も届いている。

『アプリのインストールが完了しました。』

健(…?なんだ、間違ってアプリを入れたのか?)

そう思い、アプリを開いてみると、そこにはキラキラとしたソシャゲのようなイラストと

健「こどもガチャ…」

というタイトル。

不審に思いながらも、興味本位で先に進んでみた。

すると、

ウサギ『おめでとうございま〜す。新規インストールの方はガチャ1回無料です〜。』

と、草原ではしゃぐピンク色のウサギのキャラクターの音声が流れた。
可愛らしいキャラデザに反して、感情の無い瞳が不気味さを物語っている。

ウサギ『このアプリは、名前の通りこどもをガチャで手に入れられるアプリです〜。0歳~17歳までの男女のこどもがランダムで貴方の元へ届きます〜。こどもは★1~★5までのレア度があります〜。★が多いにつれ、頭が良かったりスポーツが得意だったり容姿が整っていたりします〜。★5が出る確率は0.2%くらいですけどね〜』

淡々とした口調で説明をするウサギ。
画面には、
ガチャを回す
回さない
の2つのボタン。

健「ゲームか何かか…?まぁ」

健(本当にこれで子どもが俺の所へ来たら、寂しさも紛れるのか…)

と、ほとんど疑いの気持ちでお酒も入っていたこともあり、ボタンを押した。

すると、ウサギが地面を掘っていき、1つの箱へと辿りついた。
そして箱が開き

ウサギ『おめでとうございます〜。貴方はこれから拓斗くん(0歳)の親です〜。★はまだ0歳で未知数なので1ですね〜。ざんね〜ん。明日、お届けいたしま〜す。因みに返品は不可なのでご了承くださ〜い』

と、説明があった後、画面は草原のような場所へ移り、ウサギが駆け回っているだけの映像になった。

健「なんだったんだ…?」

俺は意味が分からず、軽くため息をつきスマートフォンの画面を閉じた。

健(変なことに時間を使ったな…。明日は休みなんだしもう寝よう)

そうして俺は布団へ入り、眠りについた。



次の日

「あーー、あぅ、あ…」

聞き覚えのない物音で俺は目を覚ました。

健(なんだ?猫か?)

そう思い、物音のする方向へと向かう。
たどり着いた先は玄関だった。

そして、その瞬間寝ぼけていた俺の頭は一気に起き、その音が声だったことが分かった。

「あぅ…ぁ…」

その声の主が赤ん坊であることも瞬時に理解した。

ゆりかごの様な物の中に、毛布に包まれた赤ん坊と1枚の紙が入っていた。

突然のことに、パニックになり心臓がドクドクいっているのが分かる。

恐る恐る紙へ手を伸ばし、内容に目を通す。

『この度は当アプリをご利用いただき、ありがとうございます〜。
こちらの子が、貴方がゲットした拓斗くん0歳です〜。
親権は貴方にありますので、御自由にお育てくださ〜い。
こどもガチャ』

健「は…??嘘、だろ?」

昨晩のアプリは本当だったというのか…?
俺がガチャを回したから、この子がここに?

健「意味が分からない…!!!」

思わず大声を上げ、頭を抱え込んだ。

拓斗「ふぇぇ…ん」

その声にびっくりして、赤ん坊が泣き出してしまった。

咄嗟に赤ん坊を抱き上げ、

健「ご、ごめんね〜、大丈夫、もう大声上げないから〜」

と、我ながら似合わない猫なで声で赤ん坊をあやした。
すると、赤ん坊は安心したのかうとうとし始め、そのまま眠りについた。
俺はホッとし、そのまま寝室へと移動して赤ん坊を布団の上で寝かしつけた。

健「…で、どういうことなんだよ」

と、小さく呟き、スマートフォンを手に取った。
昨日のアプリを開くと、ウサギが走って画面まで駆け寄ってきて

ウサギ『え、もう1人引くんですか〜?太っ腹です〜。』

と若干テンション高く喋っている。
そして

ガチャを回す(1000万円)
ガチャを回さない(冷やかしかよ)

のボタン。

健(回さないのボタン、一言多くないか?)

と、思いつつも回さないのボタンを押した。

すると、明らかにテンションだだ下がりのウサギが気だるそうに寝転びながら

ウサギ『なんですか〜。なんか質問系ですか〜?』

と言っている。

画面下にはチャット形式でウサギに直接質問文を送れる項目があった。

俺は

健『引いた子は私の子なんですか?』

と打った。すると、ため息をついたウサギが

ウサギ『そうお手紙にも書いてましたよね〜?ちゃんと読んだんですか〜?もうその子は貴方の子なんですよ〜』

とやれやれ…と首を振りながら喋っている。

健(腹立つな…)

と思いつつも

健『困ります。お返ししたいです。』

と打った。

すると、ウサギの動きが一旦止まり

ウサギ『返品不可っていいましたよね〜?貴方は無責任なお馬鹿さんなのかな〜?分かったら早くその子を育てるのですよ〜?どうしてもって場合は捨てちゃえば〜?』

と、今までより低く不気味な声で俺を嘲笑いながら言い放った。

それだけ言い残すと、昨晩の草原でウサギが駆け回っている画面に戻り、先程の画面にはどうしてもたどり着けなくなった。

俺は方針状態で天井を見つめた。

健(育てる…?今まで子育ては嫁に任せっきりだった俺が…?そんなこと無理に決まってる…じゃあ)

捨てちゃえば〜?

ふいに、ウサギの言葉が頭を過ぎった。
その瞬間、冷や汗が頬を伝い落ちたのが分かった。

健(捨てる…?俺が、この子を…?でもそうだ…こんな俺が育てるよりもっと他の人に育てられた方が…)

そんな考えが一気に思考を支配した。

その時

拓斗「ふええええええん!!!」

突然泣き出した赤ん坊。

俺はハッとし、急いで赤ん坊に駆け寄った。

健「ん〜?どうしたのかな〜?おしめかな〜?」

そう言ってオムツの様子を見ても、取り替えのタイミングでないことがわかる。

健「なんなんだ〜!?俺がうるさかったのか??」

拓斗「ふぇぇぇ!!!!」

俺の問いかけになんて答えてくれるはずなく、ひたすら泣き続ける赤ん坊。

深くため息をつき、苛立ちを抑える。

健(何で俺がこんなことに…)

その時、


『この子は、抱っこが好きなのよ』

ある声が、頭を過ぎった。

懐かしい…。
綺麗な声。

ああ、これは…。

『抱っこをすると泣き止むの。甘えんぼさんよね〜』

妻の声…。

懐かしい、娘が産まれたばかりの頃の。

今でも、思い出す。
まだ君の話を聞いていた時の俺…。

確か君は、優しく娘を抱きしめて

『朱里(あかり)ちゃん、大丈夫よ〜、安心してね』

と、囁いていたね。

俺は、その時の妻の様に赤ん坊を抱っこし

健「拓斗くん、大丈夫だよ。安心していいんだよ」

と、囁いた。

すると、

拓斗「あぅ…ぁ…」

と、微笑んでくれた拓斗。

その時の笑顔があの時君に笑いかけた朱里と、とても似ていて。

俺は思わず涙を零していた。

ああ、忘れていた。

〝家族〟に笑いかけられる喜び…。

こんなに大切なことだったのに…。

そして

健「…大丈夫、だから…。」

と、拓斗を優しく抱きしめた。

俺は意を決して、スマートフォンを取り、ある人へ電話をかけた。

朱里『なに?今から帰るとこだけど』

娘の朱里だ。

健「疲れてるのに、すまん。…その、帰ったら話したいことがある。」

朱里『え…』

俺の言葉に、驚いている様子の朱里の声。

朱里『珍しいね…。そんなこと言うの。分かった』

健「あ、ああ。気を付けて帰ってきなさい」

朱里『…!?本当、珍しいこともあるわね。』

と言った朱里の声は、何となくだが笑っているように聞こえた。



朱里の帰宅後、俺は朱里にこどもガチャの事も拓斗の事も全て説明した。

そして、拓斗を家族として迎え入れたいという俺の気持ちを正直に話した。

朱里は困惑していたが、アプリやゆりかごの中の紙、そして何より拓斗本人を見て納得をして、拓斗を育てることに協力すると言ってくれた。

朱里「んーー、私、弟欲しかったんだよね♪可愛いな〜」

そう言って拓斗を抱っこする朱里。

健「理解能力が早いな…笑」

朱里「まぁ、若いし♪」

健「どうせ俺はおっさんだよ…」

そう言うと、朱里は拓斗を俺に差し出してきた。

そのまま膝の上で拓斗を抱っこする俺。

朱里「…てか、そのアプリは怪しいしこわいけど…。私単純だから、この子が来て嬉しいか嬉しくないかで考えただけ〜」

と言いながら拓斗とほっぺをつんつんする朱里。

朱里「…だって、私には無関心だったお父さんがこの子には関わっていきたいって思ってるんだなーって感じたから」

健「朱里…」

朱里「私…。お父さんのこと嫌いだった。休みの日はいつも接待や仕事で運動会も来てくれたこと1回も無い。お母さんが死んだ日も、仕事で間に合わなかった…。仕事大好きで私達のことなんて興味ないんだって」

健「……」

朱里「でも、お母さんの最期の言葉で分かったの」

健「最期の、言葉…?」

朱里が俺の手を握り、真っ直ぐ見つめて言った。

朱里「…お父さん、私達を守ってくれてありがとう。って」

健「!?」

朱里「お母さんは、分かってたんだね。お父さんは私達を守るために仕事をしているんだって…」

健「……」

朱里「思い返すとさ、お父さん私の運動会の写真見て寂しそうな顔してたでしょ。本当は行きたいって、思ってくれてたんだね…。」

健「朱里…寂しい思いをさせてすまなかった…」

そう言った瞬間、朱里の綺麗な瞳から大粒の涙が次々とこぼれ落ちた。

朱里「私こそ…分かってなくて、ごめんなさい…」

そこから朱里は今まで言えなかった本音を言えて安心したのか、わんわんと泣きじゃくっていた。

その姿を見て、

こんなに我慢をさせていたのか…と思った。

そして、泣き止むと

朱里「じゃあお父さん!約束!拓斗の運動会は一緒に行こ!!」

と言った。

健「ああ、約束する…」

朱里「毎年だからね!」

健「ああ」

そして朱里が小指を拓斗の小指に当て

朱里「はい!お父さんも!」

と、にかっと笑った。

俺は照れ笑いを浮かべ、2人の小指に自分の小指を重ね

健「約束な…」

と、微笑んだ。

ver.2

ver.3

#創作大賞2024 #漫画原作部門


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