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短編小説:口唇の余韻

彼女は細長いソレを手に取り、軽く息を吐きながらゆっくりと唇を寄せる。
唇が表面に触れる瞬間、彼女の表情がかすかに柔らかくなり、目を閉じた。
唇の端がほんの少しだけ開かれ、艶やかなものが滑らかに口の中に迎え入れられていく。

舌先がそっと動き、それを優しく撫でるように包み込む。
彼女の舌が絡みつくたび、唇の端がかすかに動き、その動作に合わせて胸の奥から微かな吐息が漏れる。
彼女は一度に飲み込むことなく、ゆっくりと口の中に留め、味わうかのようにその感触を楽しんでいる。

表面を舌でなぞるたび、彼女の唇はしっとりと潤い、滑らかなソレをより深く口に含む。
彼女は少し首を傾け、舌先がさらに奥へと進む。
その瞬間、彼女の唇が自然と柔らかく閉じ、まるで何かを愛撫するかのように、口の中で静かに転がるものを味わい続けていた。

指先がまたそっと動き、彼女はその細長いソレをさらに口へと誘う。
唇の端からはわずかに濡れた光が見え、彼女の顔には無意識の陶酔が漂っている。
その動作は、ゆっくりとしたリズムで繰り返され、彼女は自分の中に溶け込むように、それを丁寧に扱い続けた。

彼女は最後の一口を唇に運び、慎重に口の中へと迎え入れる。
ゆっくりと舌先でその余韻を味わいながら、唇をそっと閉じる。
恵方巻きを食べ終えた瞬間、彼女の身体に柔らかな安堵が訪れ、深く満ち足りた感覚が静かに広がっていく。

彼女の唇は微かに濡れたまま、静かに息を吐き出す。
目を閉じ、わずかな疲労と共に漂う充足感が体の奥底から浮かび上がり、ゆったりと彼女を包み込んだ。
まるで長く求めていたものに触れ、ゆっくりと解放されたかのように、心地よい余韻がその全身を通り抜けていく。

その一瞬の静寂の中で、彼女の胸には微かな高揚とともに、深い満足感が息づいていた。

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