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短編小説:追い詰められた鼓動

サトルは絶望と焦燥に突き動かされるように、アクセルを力強く踏み込んだ。
エンジンの唸りは、彼の体内で燃え上がる欲望と共鳴し、車全体がまるで生き物のように震える。
追い越し車線を駆け抜ける彼の視界は、周囲の光を捉えながらもどこかぼやけ、ただ一心に目指す先だけを見据えていた。

胸の奥で高鳴る鼓動は、彼の心拍数を狂わせ、血液が熱く、激しく体内を駆け巡る。
呼吸は荒くなり、体中の感覚が鋭敏になるにつれて、サトルはさらにアクセルを押し込み、車のスピードはさらに加速する。
全身が緊張の糸で張り詰め、次のサービスエリアまでの距離を刻むカウントダウンが、彼の心をますます熱く、焦らせた。

「あと10km...」
彼の中でその言葉が誘惑的なリズムとなり、追い立てるように彼を突き動かす。
車を追い抜くたびに、胸の奥で快感が沸き上がり、スリルが一層高まっていく。

「あと5km...」
彼は歯を食いしばり、欲望の赴くままに車を爆走させた。
彼の手はハンドルにしっかりと絡みつき、彼の全身がスリルに包まれる。

残り800m。
彼の精神は極限状態に達し、もはや時間の感覚すら曖昧になっていた。
左側の車線へと車を滑り込ませる瞬間、ようやく彼は目の前に救いの場所を見出す。
安堵のため息を漏らすと同時に今まで押し殺していた尿意が絶頂に達し、その瞬間、彼の体はついに限界を迎えた。

サトルは間に合わなかった。
数秒前まで全力で突き進んでいた彼の意志とは裏腹に、彼の体は屈服し、遅れて訪れた解放感が彼を包み込んだ。

絶望と安堵、屈辱と解放が入り混じる感情に打ちひしがれながら、彼はようやく車を停めた。
エンジン音が止むと共に、彼の心も静かに波打つように沈んでいった。

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