天然物のアラーム

アラームより前に雨音に起こされた今朝。朝日は差し込んでないし、窓台は水滴に満ちているけど
乾いた瞼はいつもよりご機嫌に開く。肌には天然成分が良いとは言うが、耳にも天然物の方が荒れにくいのだろう。溜まりに溜まった未来のアラームを消しながら、予定のなかった数十分の過ごし方を考える。賞味期限当日の卵で出汁でも巻こうか、昨日貰ったベトナム珈琲でも吟味しようか。

雨は面倒だが、嫌いじゃない、なんなら好きだ。
雨は流してくれる。街の汚れも、身から出た錆も、口から出た災も。人の目も声も遮ってくれる雨。傘の下にいる時だけは殺伐とした社会から独立した気になれる。私の重たいネガにも雨は寄り添い、平凡な日常を雨音で彩りを添える。雨が降り注ぐ街では、人間は皆無力で、いつもより広くとれた空間を謳歌し、深く息を吸う。空間を共有し、いつもよりたるんだ糸を絡め合い、深く心を育む。

相変わらず傘を差すのは下手だから親指に水たまりができるし、電車の窓から映る夜の光は白くぼやける。息を吐いて描いた傘に誰を入れようか。雨が嫌いって言う君でも入れてみようか。

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