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大学でリライトワークショップ

今日、とある大学の『現代教育課題』という科目でゲストティーチャーとして1コマ授業をしてきました。

学生さんたちはほとんどが教師志望で、今は『学校における異文化理解』というテーマで外国ルーツの子どもたちの教育について学んでいます。その一環として、リライト教材についての講義とワークショップを行ってきました。

90分という短い時間の中でいかに学生さんに分かりやすくリライト教材の大切さを伝えるか、けっこう頭を悩ませました。

授業の目的

わたしは日本語指導員や学校教職員に対してリライト教材のワークショップを行うときには以下の2つに気づいてもらうことを目標にしています。
しかし、これから学ぶ段階の学生さんたちにとって2.についてはなかなか自ら気づくことは難しいと思います。

  1. 日本語ノンネイティブの子どもたちにとって国語の授業で扱われている物語文や説明文がどれくらい難しいか。

  2. 難しいにもかかわらずクラスメートと同じ教材で学習することの意義とは何か。

できるだけ私から答えや私の考えに導くのではなく、何かに気づいてもらうような授業運びを心掛けました。

授業の流れ

10分前からポツポツと学生さんが集まって来ました。なるべく時間を有効に使いたいので、予め座席もグループで固めようと思い、机の移動をお願いすると快く手伝ってくれました。
時間には一人も遅刻することなく揃い、軽く自己紹介をしてからワークショップをスタートさせました。

★リライト教材についての説明★
『リライト教材』とはどんなものだと思いますか?という問いに対して、ほとんどの学生さんはピンと来ていませんでした。「リ•ライト」という英語だと言うと、「書き直す?」という答えが出て来ました。
考案者でもある光元聰江さんのホームページや『外国人特別支援の児童生徒を教えるためのリライト教材』(ふくろう出版)から以下の文を引用し、同書籍内のごんぎつねのリライトを例にあげながら丁寧に説明しました。

学年の教科書の表現を子どもの理解力に合わせてやさしく平易な表現に書き換えたり、段落が把握しやすくなるようにレイアウトし直した教材

代表 光元聰江 きらりんHPより 

発達段階に応じた思考ができるよう、子どもの日本語力に対応させて、教科書本文を書き換えた教材

外国人・特別支援児童生徒を教えるためのリライト教材 改訂2版 編著者:光元聰江・岡本淑明

学生さんたちは皆、集中して聞いてくれました。

★どのようにリライトするかイメージする★
実際に、リライト教材作成の活動に入っていきます。
学生さんには事前にリライトをしてもらう重松清作【カレーライス】を読むように伝えましたが、もう一度ストーリーのイメージをつかんでもらうために一人で読む時間を設けました。光村図書の6年の国語の教科書に出てくるこの【カレーライス】は、登場人物の相互関係や心情、場面についての描写をきちんと捉えなければなりません。

★グループでリライト作成★
今日のメインです。まず、対象児童を下記のように設定しました。
そして、物語に出てくる台詞の部分はそのまま使用し、その前後をリライトする『ポイントリライト(一部分だけリライトする)』をやってもらいました。

小学6年生
家では中国語
滞日年数3年
日常会話はほぼ支障なくできる
やや長い文がわかる

皆さん真剣に取り組んでいて、グループに1名いる中国からの留学生とコミュニケーションを取りながら当事者の気持ちをしっかり考えていました。
「この日本語ならわかるかな?どう?」
「こっちのほうがわかりやすいです。」
また、難しい表現が出てきたときも、
「物語の性質上これはリライトせずにこのまま残そう」
「むしろ母語が中国語だから難しい漢字の熟語に置き換えてはどうか?」

など、本当に初めて教材作りをしたとは思えないほど感性が豊かです。

真剣に取り組む学生たち。クラスには中国からの留学生が8名おり、各グループに1名ずつ入ってもらいました。

★発表★
短時間の作業でしたが、どのグループも発表までこぎ着けてくれました。前に出て、自分たちがリライトしたものを書いた模造紙を掲げ、工夫した点を発表してくれました。

ぼくは悪くない。
だから、絶対に「ごめんなさい。」は言わない。言うもんか、お父さんなんかに。

重松 清 作「カレーライス」光村図書

出だしのこの部分をリライトするにあたり、全グループが倒置法はわかりにくいから、
⇒ぼくは悪くない。だからぼくは絶対にお父さんに「ごめんなさい」は言わない。
とすると発表していました。またあるグループは、誰が誰に「ごめんなさい」を言うか分からないかもしれないから主語を入れると発表していました。
皆さん初めてなのに本当によく考えてリライトできていました。

まとめとして

今日の授業の目的2「難しいにもかかわらずクラスメートと同じ教材で学習することの意義とは何か。」について学生の皆さんに伝えたことを書いておきます。
実際の日本語指導の現場(学校)でも、小学校高学年や中学生から編入してくる外国人児童生徒数はたくさんいます。彼ら彼女らは皆、母国で就学経験があり、学齢相当の知識や学力がある子どもがほとんどです。そんなときに、学校の先生や日本語指導員が「日本語ができないから小学1年生の教科書から勉強しましょう」と言ったらどんな思いになるでしょうか。
きっと、「日本語が分からないだけで、6年生の勉強はわかる!1年生じゃない!」と自尊心が傷つくと思います。クラスのみんなと同じ教材を使って勉強するには難しすぎるけど、リライトした教材で内容が理解できたら、クラスのみんなともつながりが感じられ、もっと日本語を勉強してもっと授業が分かるようになりたい!というモチベーションが上がると思いませんか。

事後アンケートより

非常に良い学びになり、これからのキャリアに役に立つと感じた。

ワークショップ後のアンケートより

事後アンケートでとてもうれしい回答がありました。
教師を目指す学生さんにとっては今日の体験は、今の時代知ると知らぬとでは学級経営に大きく差が出る良い学びだったと思います。また、教師ではない道を目指す学生さんにとっても、いわゆる『やさしい日本語』の知識があることでコミュニケーションの幅が広がることを感じてもらえたと思います。
リライト教材を自作するのは大変な労力が必要です。でも、今回の学生さんのように一度体験してみることで、多様な支援が必要な子どもたちに適切な教材を選定する目が養えます。それを感じてもらうのが目的でもあります。
今回、この大学の学生さんたちと出会えてわたしも初心に立ち返り、いろんな学びがありました。また同じような出会いがどこかであれば嬉しいです。


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