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ニコスケッチ#10 暗黙知

★ 自転車の乗り方教えてください
★ うまく説明できないなあ…

  • ハンドルを持つ手や肩に力を入れない、ペダルを踏む足元を見ないで前方、遠くを見る…などなど

  • 説明聞いてもできないよね、くり返しやってみるしかないよね。これって描くことに似てませんか?

自転車に乗って

北嵯峨の景観

自転車に乗れる人は思い出せますか? 乗れるようになった日のことを…
そしてなぜ乗れるようになったのか、どうすれば乗れるのか、人に説明できますか?
きっと最初は考えながら練習したでしょう。ペダルを踏み出すタイミング、両足をペダルに乗せるタイミング、体重のかけ方、いろいろ試したと思います。
それをくり返しているうちに突然、乗れる瞬間がやってきます。最初はほんの数秒しか乗れなかったのが、しだいに安定して長く乗れるようになります。
そのうちに何も考えなくても体が勝手に動いて乗れるようになり、身についた乗り方は忘れることはありません。

これって、描くことに似ていませんか?

暗黙知と形式知

北嵯峨の景観

知識には、暗黙知形式知があるそうです。形式知は、言葉や図で説明し人に伝えることができる知識や技術です。
それに対して暗黙知は言葉や図で説明できない知識や技術です。自転車の乗り方は暗黙知です。そして絵を描くこのほとんどが暗黙知のように思えます。職人の技術、匠の技なども暗黙知でしょう。
それらの知識や技術をどうやって継承するのか、いろんな分野で研究されているようです。

説明できない描き方

奈良 浮見堂スケッチ

奈良の浮見堂、紅葉の部分をアップにすると…

紅葉、拡大

1枚いちまい、葉の形を観察して描いた訳ではありません。カン瞬間的に描いています。この描き方を言葉で説明するなら…

  • 平筆を立てて、筆を右左と回しながら穂先で画面をつつくように描きました。

でも言葉だけでは分かりにくいですよね。実際に描いているところを見ていただくと…それでも伝わらなくて、難しいわからない…と言われます。何が難しいのでしょうか?

リズム

北嵯峨の景観

ひとつはリズムです。人は意識せずに絵を描くと、等間隔、左右対称、同じ大きさ、同じ傾き、同じ長さ…と形を揃えてしまう傾向がありって、それが人のリズムです。自然には人とは違った別のリズムがあります。その自然のリズムを再現しないと、違和感のない自然を描けないのです。
自然のリズム…これの説明も難しいです。

先の紅葉の葉を描き方で言葉で説明すると、

  • 筆を回すスピード、回す回転量、つつくタイミング、強弱…それらを一定にならないように変化させています。

なんか、とても難しいテクニックを使っているように思われますが、そんなことないです。何も考えずに自転車に乗っているのと同じような感覚、かってに手が動いています。この状態を友人は自動化と呼んでいます。

絵画教室の先生は、絵の描き方を言葉に置き換えることにあの手この手で工夫されているのでしょう。ワタシの恩師も昔、言いました。
教育は言葉である…と。

学ぶって

北嵯峨の景観

自転車の話に戻りましょう。
自転車の乗り方を教えてください…と聞かれても、どのように説明したらわからなくて…

  • とにかく乗ってみればイイ、そのうち乗れるようになるよ

…なんてことになるのでは?  絵も…

  • とにかく描きなさい、描いてるうちに描けるようになるよ

…ってことかな?
暗黙知を教えることは難しいけれど、どうやって暗黙知を獲得したのか、そのプロセスを説明することはできるでしょう。

ワタシの私見です。絶対そうだよとは言わないけど、絵の描き方を教えることは…
自転車で言うと、倒れないように後ろから荷台を支えたり、補助輪をつけたり、効率よく練習できる場所や方法を用意することかもしれません。

絵の描き方を学ぶことは、先人たちが、あんなことこんなこと、いろんなことをしてできるようになった…そのプロセスを追体験することなのでしょう。

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