第5回 元女性市議と考える”まちのつくり方”
今回はゲストに元尾張旭市議会議員の大島もえさんをお迎えしました。
そして、もえさんを紹介くださった山田市長も忙しい合間を縫って特別参加。
場所は前回に引き続きハチ公園さんです。
前例を作る
もえさんは衆議院秘書を経て、2003年から尾張旭市議会議員を4期×4年=16年つとめられました。その間いろいろな「最初」を達成されます。
26歳の初当選のときは、最年少当選。それから16年の任期のなかで、もえさんは4人のこどもを出産。議員在任中最多出産となります。
最初ということは、それまでに前例があまりないこと。特に4人のこどもを出産し、育てながら市議をつとめるということは、男性中心の議会のそれまでの仕組みのなかに存在しない在り方でした。マイノリティとしてのもえさんの存在が、様々な制度上の隙間を浮かびあがらせます。
たとえば、産休、育休の問題。議員が出産して議会を休まないといけないということがそもそも想定されていない。議員は「労働者」ではないので、労働基準法の埒外にあるのだそう。保育園に入るための就労証明も自分で提出するしかない。様々な壁を乗り越えながらも、もえさんは次に続く女性議員や、社会のためにも、自分のケースが今後の事例となることを視野に入れた仕組みづくりを考えます。
ニュージーランドのアーダーン首相も首相就任直後に妊娠がわかって、6週間の産休をとったことで話題になりましたが、その間、職務は副首相が担当していたんだそう。コロナ禍での自宅からの丁寧で自然体での発信も話題になりましたが、多様な生き方、仕事のあり方を目の当たりにして励まされた人たちは世界中にいたはず。家庭やケア労働は女性にまかせて、男性が外で働き、政治も動かすといった旧モデルからバージョンアップした、新しい政治がまさに世界中でおこりはじめています。日本にもそうした流れを生むべく、もえさんは「出産議員ネットワーク」や「子育て議員連盟」などの活動にも関わっています。
新しい価値の風呂敷をつくる
もえさんにとって議員とは、第一義に lawmaker(法律を作る人)だそう。世の中はマジョリティを基準に作られていて、想定されていなかったマイノリティについては、そこに必要な物事がなかなか法制化されていません。法制化するということは、社会化するということ。たとえば、以前は介護は女性の役割や家庭のこととされていましたが、それを個人や家庭の問題ではなく、社会が向き合うこととして、社会の仕組みのなかに入れようということで介護保険が導入され、今ではみんながそれを当たり前のこととして享受しています。
自分が議員として目指す役割は、”なきものにされた人を社会の仕組みの中にいれる、新しい価値の風呂敷をつくること”という言葉にはぐっときました。
人は生まれた境遇(性別、家族、場所、国etc.)によっていろいろともって生まれたカードが違います。
・その人がその人らしさを抱えたまま暮らせる世界とはどういったものか。
・どんな仕組みが変わると、自分が感じる生きづらさが克服されるのだろうか。
・社会はどうやってアップデートされていくのだろうか。
こういった問いに答えるためには、特権をもつマジョリティがその特権性に気が付き、そこを起点に変えていくということや、個人に由来すると思っていたことを社会の構造によることと価値転換して考えてみることにヒントがありそうです。
そして、その考えを人と共有し、対話することが大事。でも、同じ言葉を使っていても話している内容が一緒じゃないとかみあわない話を続けることにもなるので、言葉の定義をそろえるということも、とても大事なこと。もえさんはよく主義主張をしていると、人とケンカにならないですか?と聞かれるそうなのですが、意見は反対でも、この町のことをよくしようと思う仲間同士なので、ケンカになることはない、と答えられるのだそう。
ボルテールの「あなたの意見には反対だが、あなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」という言葉も紹介いただきました。
協働すること
さぞかし苦労の連続であったと思われる実体験と信念にもとづいたお話を、やわらかい口調でにこにこと楽し気に話されたのを聞いた後には、参加者からもたくさんの言葉が自然とするすると出てきます。そこではこんな感想と話したいテーマが挙がりました。
・家族も含めた他の人との協力体制はどうやって作っていけるのか?
・若い人にどうやって政治に興味をもってもらえるか?
・どうすれば女性だから、男性だからといったような性別による差別のないような社会が作れるか?
・どうすれば家父長的な価値観が身についた世代の考えを変えることができるか?
・自分のことを話すことに慣れていないのが問題ではないか。多様な世界にもっと目をむける必要があるのでは?
・やりたいことを実現しようにも、子育ての大変さからあきらめてしまったり、モチベーションが下がるのはどうすればよいか?
それを受けて、もえさんからは、夫や家族、支援者を巻き込みながら、チームとして協働することの大事さを、これまでの実人生の例などから話てもらいました。自分のやりたいことを実現するためには、わがままでいることも大事。でも、それを自分の権利として主張するのではなくて、関係する相手との対話や交渉は欠かせない。親としては、そうした自分の生きざまや人生をそのままこどもに見せて、自分で生きていく力を養ってもらう。差別的なことやおかしいと思ったことに直面したときには、それはおかしい、と思うことを伝えていく。でも、それを直球でいくのではなく、その言葉をオウム返しで相手に問いかけてみる、などの工夫も有効、といったお話もうかがいました。
もえさん曰く。無人島で一人で暮らしているなら政治はいらない。いろんな人、価値観がある人と人の間で暮らすわたしたちであるからこそ政治が必要。毎日の選択、今の積み重ねが歴史をつくる。ヒーローを待つのも、一人の100歩に頼るのでもなく、100人の1歩を踏み出そう!
「人々と共に政治を。」そんなことがとても身近に感じ、考えることができる時間でした。
政治って何か自分とは遠い出来事なのではなく、日常のなかで、自分が自分らしくある方法を探りながら、特権や不都合に気がつけばそれを改善しようとし、一歩一歩考えを進め、参加することができるものだということが実感できたような気がします。
ゲストスピーカーの大島もえさん、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。
本年度のまちづくり自主学校はこれで終了です。
ゲスト、参加者、スタッフがみんなで熱量をもって考え、話した時間はかけがえのないもので、次への一歩を踏み出せそうな予感がします。
次年度は、まちづくりに関するもう少し実践的なワークショップも含められないかと計画中。お楽しみに!
(ミナタニ アキ)