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2023 牡牛座の言葉 西加奈子┃「私は私」という強い実感が生まれる背景とは~押しつけられた価値観に「じゃかましわ!」

占星術における12サインは、12か月の季節の移り変わりに照応し、その時期に感じやすい心のテーマがあります。心理占星術家nico (ニコ)が、古今東西の著名人の言葉から12サインそれぞれの象徴を見出し、心理的葛藤と成長を考察したエッセイ。

2023年の牡牛座期は、作家・西 加奈子に注目。本年4月、乳がん闘病生活の体験で得られた初のノンフィクション作品「くもをさがす」を発表。刊行にあたってのインタビュー記事の言葉から、牡牛座の「私は私」という強い実感が生まれ出る理由と背景を見出しました。

牡牛座の言葉


こんなに人に愛され、慈しまれた8ヶ月の治療期間はなかった。いま息をしているだけですごいこと。毎日目覚めるだけで「生きたい」という願いがずっと叶い続けている。抗がん剤の治療に堪えたから私の身体が素晴らしいわけではなくて、44年間生きてきたという、それだけですごいことだと気づいた。本当はもっと褒めてやるべきだった。自分自身にこんなに愛された記憶が残るのは、後の人生においても大切なこと。

雑誌「&Premium 2023年7月号」インタビューより


 この連載の中では、しばしば太陽サインとは「あなたは〇〇な人です」という固定されたパーソナリティを表すものではなく、それは追い求め続ける姿であり、終わりのない自己実現への道のりのことを表現するものだということを述べてきた。今回、西加奈子の言葉は、その仮説を証明してくれているのではないか。

 さらにそこに加えるなら、太陽サインとは、陰=月を経た後にこそ本領発揮するというか、本物の輝きを放つようになるのだ。

 それは当然そうだろう。ホロスコープの構造的にも、太陽=獅子座=5ハウスは、月=蟹座=4ハウスの後にくる。つまり、太陽は必ず月=陰を経てでないと体験できないわけで、そして月=陰とは、夜の象徴であり、暗く苦しい道のりを歩んだ先に夜明けの太陽が輝きはじめるということだ。

 西加奈子は、もともと素晴らしい作家である。エジプト・カイロ育ちということもあり、ボーダーレスでジェンダーレス、また独特の勢いのある小説は、いつでも希望と明るさをもらえた。もちろん、これまでも十分、太陽活動をやってきたわけだが、乳がん発見からの闘病記録「くもをさがす」を出版した後、こう言っている。

これまで、社会から押しつけられる価値観に、小説を通して「じゃかましわ!」と言ってきたつもりだった。でも、まだまだ足りなかったと気付いた。「こんなに自分の体がいとおしいと思えたことはなかった。『じゃかましわ!』が大きくなりました」。

雑誌「&Premium 2023年7月号」インタビューより

 
 闘病という暗い体験の先に、より「らしさ」が際立ったということになる。

 誰かの価値判断に任せるのではなく、自分のものさしを信じること。闘病を通して彼女が得たのは、「私」というくっきりとした輪郭だった。

 最新作「くもをさがす」の中でこんな印象的なことを書いている。

自分の身体を取り戻す、ということを、よく考えるようになった。

私は今まで、あらゆるものに影響を受け、それを内面化し、結果、自分が本当にどういう自分であるのか、何を愛して、何を嫌悪するのかを、少しずつ手放していったように思う。やはり「老けたくなかった」し、「毛を処理していないとみっともない」と、どこかで思っていた。それらすべてを手放すことが正しいわけではないし、実際に私はすべてを手放せていない。でも、流行りの服を放棄し、ムダ毛の処理を、そしてファンデーションを塗るのをやめた私はその分、何かを取り戻しつつあるように思う。少なくとも今の私には、バンクーバーのこの静けさが必要だった。

西 加奈子著「くもをさがす」より

 これぞまさに牡牛座の成長プロセスではないだろうか。

 星読み的に牡牛座は「自己の感覚に優れ、自分の価値観にこだわり、わがままで頑固」という解釈が与えられている。しかし、そうではないのだ。そうありたかったけれど、そうなれなかった歴史があり、そうなろうとした努力や葛藤があり、そして少しずつ「何かを取り戻しつつあるように」なるということだ。

 つまり、これからの牡牛座太陽をこのように解釈することができるだろう。

 周囲から、押しつけられる価値観に「じゃかましわ!」という力を持って生まれてきたが、外部のあらゆるものに影響を受け、それを内面化し、結果、自分が本当にどういう自分であるのか、何を愛して、何を嫌悪するのかを、少しずつ手放していくことになった。その後、様々な体験を経て、特に暗く苦しい出来事のおかげで、「44年間生きてきたという、それだけですごいことだと気づき、自分自身にこんなに愛された記憶が残るのは、後の人生においても大切なことだ」という自己に対する愛に満たされていく。

 そのような太陽の成長プロセスを得ることで、「私は私」という強い実感を持って、愛すべき人生を生きられるようになるのだ。

 今、木星や天王星も牡牛座を運行している。誰もが皆、このような牡牛座体験に少しは近づけるかもしれない。

 自分を取り戻すために押しつけられた価値観に「じゃかましいわ!」と言い、そして今の、たった今のこの自分がすごいのだ、褒めるべき存在なのだ、愛するべき存在なのだという記憶をつくる、そういった筋力=木星、気づきの機会=天王星を自分に与えてみるのはどうだろうか。



西 加奈子(にし・かなこ)
1977年5月7日イラン・テヘラン生まれ。牡羊座に太陽、水星をもつ。
エジプト・カイロ、大阪で育つ。2004年に「あおい」デビュー。2007年「通天閣」で織田作之助賞を受賞。2013年「ふくわらい」で河合隼雄物語賞受賞。2015年「サラバ!」で直木賞を受賞。2023年4月に罹患した乳がんについて綴った初めてのノンフィクション「くもをさがす」を刊行。


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