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森田芳光全映画フルマラソン⑦:「メイン・テーマ」──技術と遊び心のマジックボックス

 「家族ゲーム」、「ときめきに死す」とダークな色の強い作品が続いた中で、森田芳光が次に撮ったのは、80年代日本映画を代表するプロデューサー角川春樹製作、人気アイドル薬師丸ひろ子主演の「メイン・テーマ」。予算もこれまでの森田作品と比べ格段に上がり、浜松、大阪、神戸、沖縄と一大ロケを敢行、併映の「愛情物語」と共に大ヒットを記録した。

あらすじ

幼稚園の先生だった小笠原しぶき(薬師丸ひろ子)は、些細なことで仕事をやめざるを得なくなった。4WDで全国をマジック修行している大東島健(野村宏伸)と、房総の海岸で彼女は知り合う。しぶきが、かつての受け持ちの園児・御前崎カカル(中沢亮)に会うため大阪へと向かうと聞き、ふたりは車で西へ向かうも、道中は喧嘩ばかり。途中、健は偶然にジャズ・シンガーの伊勢雅世子(桃井かおり)に出会い、魅かれていく。雅世子に軽い嫉妬を覚えるしぶき。大阪に着き、健は沖縄へ。しぶきはカカルに再会する。本当に会いたかった憧れの父親・渡(財津和夫)にも。しかし妻の由加(渡辺真知子)への気兼ねや、健のことも気がかりで、姉夫婦(太田裕美、ひさうちみちお)の住む沖縄へと飛ぶ。その頃、歌手生活にピリオドを打つ決心をした雅世子も、最後のステージを沖縄を選んでいた。そして、実は雅世子の恋人・渡も沖縄へ……。

奔放な撮影・編集のオンパレード

 本作の見所は何と言っても、素人目に見ても度肝を抜かれるカメラワークと凝りに凝った編集。「家族ゲーム」以来のスタッフとの信頼の下、映画ならではの遊び心に溢れた作品になっている。長回しで縦横無尽に動き回るカメラワーク、リズミカルで超現実的、時には時空間も無視する編集は、「森田芳光全映画」の中でも宇多丸氏が言っているように、「の・ようなもの」でも見られた「森田芳光のゴダール性」が全開になっている。

 そんな前衛的で実験的な作りの作品を、当時の日本映画の超メジャーな場所で製作した意図を、公開時のプレスシートで監督自身が語っている。

日本映画でもこんなにかっこよく楽しめる映画があったのかと思わせるような映画作りをして、この夏の不快指数を下げるという挑戦をした。

一歩引くからこそ見えてくる温かみ

 これは今の日本映画にも言える問題かもしれないが、特に、70~80年代にかけての日本映画というと、ATG製作作品や東映のやくざ映画など、どちらかというと暗かったり泥臭かったりする場合が多い。それはアイドル映画も同じだったらしく、当時の宇多丸氏も「歌っている曲はポップなのに、物語はものすごくジメジメしている」という不満を抱えていたらしい。

 本作「メイン・テーマ」も、不倫や四角関係を扱った作品ではあるが、ドロドロした印象は一切受けない。しぶきと健、雅世子と渡の4人が入り乱れる恋愛模様は非常に初心で、それが無邪気に見える時すらある。

 森田芳光の人間描写は独特で、どこかおかしな言動を繰り返す登場人物を一歩引いた視点から眺めるという図式の作品がほとんどだ。しかし、そういった視点に入り込みがちな皮肉めいた毒やブラックユーモアは、不思議なことに森田作品ではあまり感じにくい(風刺劇の体の「家族ゲーム」でさえ)。基本的にその視点には、全肯定の姿勢が根底にあるのだ。

 それゆえに、森田作品は仄暗い情念や残酷性のような人間のダークサイドを炙り出す姿勢からはだいぶ距離がある。「の・ようなもの」評でも書いたように、それは森田芳光の脱線も肯定する世界観とは水と油だからだ。

 次の作品は、再び松田優作とタッグを組み、夏目漱石の名作に挑んだ「それから」です。

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