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森田芳光全映画フルマラソン⑪「愛と平成の色男」──グルーヴィー!パロディー!バブリー!!

 "石田純一が"、"プレイボーイの役を演じる"、"1989年の映画"というだけで、その時代の浮かれ具合を感じずにはいられないのが本作、「愛と平成の色男」。実際はバブル崩壊直前、石田純一も不倫文化野郎のレッテルが貼られる前に作られた作品だが(石田に対し真面目な印象を抱いていた森田芳光が、あえて逆の役を演じてもらおうではないかとキャスティングしたのだそう。今ではただのタイプキャスト。)、バブル未経験,Z世代ど真ん中の自分からすると、当時のバブル風俗・時代の空気を感じられる映画だった。

あらすじ (「森田芳光全映画」より引用)

長島道行、35歳(石田純一)。昼間は妹・ルリ子(鈴木保奈美)を助手に、女性患者で大繁盛の歯科医、夜はジャズクラブで働くアルトサックス奏者という、ふたつの顔をもつプレイボーイ。女性を喜ばせることが生きがいだが、結婚には興味がなく、気楽な独身生活をエンジョイしたい。目下の恋人・真理(久保京子)、ディスコで知り合った銀座のホステス(昼は画廊勤務)の由加(財前直見)、由加の同僚のホステス(昼は婦人警官)の百合(武田久美子)、岩手の一関への演奏旅行で出会った恵子(鈴木京香)……近頃不眠症の長島は、ぐっすり眠らせてくれる女を求めているのだが……。

キザに身を委ねて

 これまでの森田作品の中でも、一段と軽い作品。それは森田芳光が製作・脚本を務めた「バカヤロー!」シリーズの2作目とのセット上映であったことにも関係している。キザなモノローグを語りながら、ムードたっぷりに映しとられた東京の夜の街で女の間を渡り歩く長島は、石田純一が演じているだけあり非常に可笑しみを感じさせる。ハードボイルド小説や「ニューヨーカー短編集」のパロディーを意図して作られた作品であるが、今はむしろ、それらに影響を受けている村上春樹の小説などが思い起こされるかもしれない。これといった教訓も感動もあえて排除され、キザな台詞やフリージャズのグルーヴィーな感覚と、ディスコやジャズバーといった夜の世界を美しく映し出す撮影にゆったりと浸れば、それで充分楽しめる作品である。
 余談になるが、今年公開され話題になった沖田修一監督作「さかなのこ」には、豊原功補演じるイヤにムンムンの歯医者が登場する。これは長島が元ネタかもしれないなどとふと思った。書籍「森田芳光全映画」には沖田監督の森田愛あふれる寄稿もある。

これがデビュー作、鈴木京香

 後の森田作品「39 刑法第三十九条」で主演を務めることになる女優、鈴木京香。本作では長島がライブのために訪れた岩手で出会う東京に憧れる女性惠子を演じている。武田久美子や財前直見のイケイケ女子っぷりと対照をなすような、落ち着きと気品を持つ惠子をデビュー作とは思えない大人びた存在感で演じている。長島の家で自転車を乗り回す森田作品らしいギャグ描写も。
 「森田芳光全映画」には彼女の衣装になるド派手なドレスを自腹で購入したり、他の映画やドラマに出演するようになった時に「なんであんな作品に出るんだっ!」と怒られたりといった森田芳光とのエピソードが披露されている。その語り口からは、森田や森田作品への愛が感じられ、つくづく魅力的な人だったのだなと改めて感じられる。

次回は、吉本ばなな原作「キッチン」です。

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